相続人の一人が行方不明――
その人を除いて遺産分割しても大丈夫?

「父が亡くなったが、兄とは何年も連絡が取れない」

「相続人の一人がどこに住んでいるのか分からない」

「連絡が取れる相続人だけで、実家の名義を変えられないだろうか」

相続が始まったとき、このような問題が起きることがあります。

遺産分割を早く進めたいと思っても、相続人の一人と連絡が取れなければ、話合いを始めることさえできません。

しかし、所在が分からないからといって、その相続人を除外して遺産分割協議を行うことはできません。

行方不明の相続人にも、ほかの相続人と同じように相続する権利があるためです。

今回は、行方不明の相続人がいる場合の確認方法と、家庭裁判所に「不在者財産管理人」を選任してもらう手続についてご説明します。

遺産分割協議には相続人全員の参加が必要です

遺言書によって遺産の分け方が決められていない場合、相続人全員で遺産分割について話し合うことになります。

例えば、父親が亡くなり、相続人が母親と3人の子どもだったとします。

このうち、母親と子ども2人が同意していても、残る1人を除いた遺産分割協議は原則として成立しません。

多数決で決めることもできません。

行方不明の相続人の名前を勝手に遺産分割協議書へ記載し、ほかの人が署名や押印を代行することも当然できません。

そのような協議書を使って相続登記を申請したり、預金を解約したりすることはできません。

まずは、相続人が誰なのかを戸籍で確定し、その全員が手続に参加できる状態を整える必要があります。

「疎遠」と「行方不明」は同じではありません

相続人と連絡が取れない場合でも、状況はさまざまです。

例えば、

  • 住所は分かるが、手紙や電話に応じない
  • 家族と絶縁状態になっている
  • 遺産分割の内容に納得せず、返事をしない
  • 住民票上の住所には住んでいない
  • 何年も前から所在も生死も分からない

といった場合があります。

住所や勤務先が分かっているのに、本人が話合いを拒否しているケースは、通常の意味での「不在者」とは異なります。

この場合は、相続人を無視して協議を進めるのではなく、家庭裁判所の遺産分割調停などを検討します。

一方、従来の住所や居所を去り、容易に戻る見込みがなく、現在の所在も分からない場合には、不在者財産管理人の選任を検討することになります。

単に仲が悪い、返事がないというだけで、直ちに不在者財産管理人を選任できるわけではありません。

まずは相続人の所在を調査します

不在者財産管理人の申立てを考える前に、行方不明とされている相続人の所在を調査します。

確認する資料としては、例えば次のようなものがあります。

  • 戸籍謄本
  • 戸籍の附票
  • 住民票や除票
  • 過去の住所や連絡先
  • 親族が把握している情報
  • 勤務先や知人に関する情報
  • 返送された郵便物
  • 警察への行方不明者届に関する資料

戸籍の附票には、その戸籍が作られてからの住所の履歴が記録されているため、現在の住民登録上の住所を確認できることがあります。

もっとも、住民登録を残したまま別の場所で生活している場合や、住所の届出自体が長期間されていない場合もあります。

判明した住所へ手紙を送っても「あて所に尋ねあたりません」などの理由で返送されることがあります。

家庭裁判所へ申し立てる際にも、どのような方法で本人の所在を調査したのかを説明し、不在の事実を示す資料を提出します。

不在者財産管理人とは?

不在者財産管理人とは、行方不明になっている人に代わって、その人の財産を管理するため、家庭裁判所が選任する人です。

裁判所は、従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない人に財産管理人がいない場合、申立てによって財産管理人を選任できます。

申立てができるのは、不在者の配偶者、相続人にあたる人、債権者などの利害関係人や検察官です。

申立先は、原則として不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所です。

申立書のほか、不在者の戸籍謄本や戸籍の附票、不在の事実を示す資料、不在者の財産に関する資料などを提出します。

裁判所の案内では、申立手数料は収入印紙800円分とされており、別途、裁判所ごとに定められた郵便料が必要です。

また、不在者の財産から管理費用や管理人の報酬を支払えない可能性がある場合には、申立人に予納金の納付を求められることがあります。

詳しい必要書類や費用は、申立先の家庭裁判所へ確認する必要があります。

裁判所「不在者財産管理人選任」

申立人が管理人を自由に決められるわけではありません

申立ての際に、不在者財産管理人の候補者を記載できる場合があります。

しかし、申立人が希望した人が必ず選任されるわけではありません。

誰を管理人に選任するかは、家庭裁判所が個別の事情を考慮して判断します。

遺産分割を進めたいほかの相続人と利害が対立する人は、管理人として適切でないと判断されることがあります。

事案によっては、弁護士、司法書士などの専門職が選任されることもあります。

不在者財産管理人は、申立人やほかの相続人の希望を実現するための代理人ではありません。

あくまで、行方不明になっている本人の財産と利益を守る立場です。

選任されただけでは遺産分割に同意できません

不在者財産管理人が選任されると、不在者の財産を調査し、財産目録を作成して家庭裁判所へ報告するなどの管理を行います。

ただし、通常の権限は、財産の保存や管理に必要な範囲に限られます。

不在者に代わって遺産分割協議を行うことは、その権限を超える行為です。

そのため、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加するには、別途、家庭裁判所から**「権限外行為許可」**を受ける必要があります。

具体的な遺産分割案を家庭裁判所へ提出し、その内容で協議することについて許可を求めます。

家庭裁判所は、不在者の利益が不当に害されないかを確認します。

ほかの相続人にとって都合のよい内容であっても、不在者が本来受け取るべき財産をほとんど受け取れないような案では、許可されない可能性があります。

法定相続分相当の利益が確保されているかなども踏まえ、個別に判断されることになります。

裁判所「不在者財産管理人の権限外行為許可」

遺産分割が終われば管理人の仕事も終わる?

不在者財産管理人は、遺産分割協議書へ署名するためだけに選任される人ではありません。

遺産分割によって不在者が預金や不動産、代償金などを取得した場合には、その財産を本人のために管理します。

そのため、遺産分割協議が終わったからといって、管理人の職務が自動的に終了するとは限りません。

不在者本人が戻ってきた場合、本人が別の財産管理人を置いた場合、不在者の死亡が確認された場合、失踪宣告がされた場合など、管理を続ける必要がなくなった段階で、家庭裁判所の手続を経て職務を終了します。

申立てをする側も、遺産分割協議への参加だけでなく、その後の財産管理が必要になる可能性を考えておく必要があります。

失踪宣告とは何が違う?

長期間にわたって生死が分からない場合には、「失踪宣告」という制度もあります。

普通失踪では、生死が7年間明らかでない場合に、利害関係人が家庭裁判所へ申し立てることができます。

また、戦争、船舶の沈没、震災など死亡の原因となる危難に遭遇した場合には、その危難が去った後1年間、生死が明らかでないことが要件となります。

失踪宣告がされると、その人は法律上死亡したものとみなされます。

これに対して、不在者財産管理人の制度では、不在者が死亡したものと扱われるわけではありません。

本人が生きていることを前提として、その財産を守りながら必要な手続を行います。

失踪宣告には、本人の婚姻関係の解消や本人を被相続人とする新たな相続の開始など、大きな法律上の効果があります。

「相続手続を早く終わらせたい」という理由だけで簡単に選ぶ手続ではありません。

所在不明になっている期間や事情、本人の財産、家族関係などを踏まえて、不在者財産管理人と失踪宣告のどちらが適切かを検討します。

裁判所「失踪宣告」

単に協議へ応じない場合は遺産分割調停を検討します

相続人の住所や所在は分かっているものの、

「連絡しても返事をしない」

「遺産分割の話を拒否している」

「分け方について合意できない」

という場合には、不在者財産管理人ではなく、家庭裁判所の遺産分割調停を検討します。

遺産分割調停は、共同相続人の一人または複数が、ほかの共同相続人全員を相手方として申し立てる手続です。

家庭裁判所で、それぞれの事情や希望を確認しながら合意を目指します。

調停で話合いがまとまらなければ、原則として審判手続へ移行し、裁判官が遺産の内容や各相続人の事情などを考慮して判断します。

所在が分からないのか、所在は分かるが協議に応じないのかによって、選ぶ手続が違うことに注意が必要です。

裁判所「遺産分割調停」

相続登記の期限にも注意が必要です

行方不明の相続人がいると、遺産分割が長期間進まないことがあります。

しかし、不動産を相続したことを知った日から3年以内という相続登記の期限は、相続人の所在調査や話合いが難航しているからといって当然に止まるわけではありません。

期限内に遺産分割が成立しない場合には、法定相続分による相続登記や相続人申告登記など、状況に応じた対応を検討します。

ただし、相続人申告登記は、遺産分割の成立や最終的な名義変更に代わるものではありません。

以前のコラムでもご説明したとおり、その後に遺産分割が成立した場合には、改めて必要な相続登記を行います。

行方不明の相続人がいることに気付いたら、遺産分割だけでなく、相続登記の期限についても早めに確認することが大切です。

行方不明の相続人を「いないこと」にはできません

相続人の一人と連絡が取れない場合でも、その人の相続権がなくなるわけではありません。

連絡の取れる相続人だけで遺産分割協議を行っても、有効な手続にはなりません。

まずは戸籍の附票などから所在を調査し、その結果に応じて、

  • 所在が分かり、協議に応じない場合は遺産分割調停
  • 所在が分からず、不在者に該当する場合は不在者財産管理人
  • 長期間生死不明で要件を満たす場合は失踪宣告

というように、適切な手続を検討します。

大志法務事務所では、

「相続人の一人がどこにいるのか分からない」

「戸籍の附票を調べたが、住所に住んでいない」

「不在者財産管理人の申立てが必要か判断できない」

「相続登記の期限が近づいている」

といったご相談に対応しています。

相続人の調査、不在者財産管理人選任や権限外行為許可の申立書類作成、相続登記まで、状況に応じた手続をご案内します。

行方不明の相続人を除いて進めるのではなく、その人の権利も守りながら相続を前へ進める方法を早めに確認しましょう。

参考情報

裁判所「不在者財産管理人選任」

裁判所「不在者財産管理人の権限外行為許可」

裁判所「失踪宣告」

裁判所「遺産分割調停」

裁判所「裁判手続 家事事件Q&A」

e-Gov法令検索「民法」

※2026年9月9日時点で確認した公式情報を基に作成しています。申立先、必要書類、郵便料、予納金などは事案や裁判所によって異なります。