会社の口座に社長がお金を入れたら「増資」になる?
資本金を増やすときに必要な決議・払込み・変更登記
「会社の運転資金が足りないので、社長個人のお金を会社口座へ入れた」
「新しい事業を始めるため、資本金を増やしたい」
「口座へ入金すれば、自動的に増資になるのだろうか」
会社を経営していると、代表者や株主が会社へ資金を入れる場面があります。
しかし、会社の口座へお金を振り込んだだけで、必ず資本金が増えるわけではありません。
会社へ入れたお金を、
- 会社に対する貸付金とするのか
- 株式の引受けに対する払込みとするのか
- 資本金や資本準備金へどのように計上するのか
によって、法律上・会計上の扱いが変わります。
株式会社が新たに株式を発行して資本金を増やす場合には、会社法に沿った決議、株式の申込み、割当て、払込みなどを行い、その後に変更登記を申請します。
今回は、株式会社が新たな出資を受けて資本金を増やす、一般的な「募集株式の発行」についてご説明します。
会社口座への入金だけでは資本金は増えません
例えば、資金繰りが厳しくなった会社へ、代表取締役が個人のお金300万円を振り込んだとします。
この300万円が何のために入金されたのかを決めないままでは、資本金が300万円増えたことにはなりません。
代表者から会社への貸付けであれば、会社にとっては代表者へ返済すべき借入金です。
一方、増資として出資を受けるのであれば、募集株式の発行に必要な手続を行うことになります。
「とりあえず会社口座へ振り込み、後から増資だったことにしよう」
という進め方は、決議の日付、払込みの時期、会計処理、登記申請の内容が合わなくなる原因になります。
資金を動かす前に、
そのお金を貸付金として扱うのか、出資として資本金に組み入れるのか
を明確にすることが大切です。
増資とは資本金の数字を変えるだけではありません
株式会社が新たに株式を発行し、出資を受ける方法は「募集株式の発行」と呼ばれます。
会社が募集株式を発行すると、出資した人は株主になります。
既存の株主が追加出資する場合だけでなく、役員、従業員、取引先、投資家など、新しい人が株主になることもあります。
そのため、増資を考えるときは、単に会社へいくら入金されるかだけでなく、
- 誰が株主になるのか
- 何株を発行するのか
- 1株当たりいくらで発行するのか
- 発行後の持株割合がどうなるのか
- 議決権の割合がどう変わるのか
- 経営権に影響しないか
まで確認する必要があります。
増資は、会社の資金を増やす手続であると同時に、会社の所有関係や意思決定の割合を変える可能性のある手続です。
まず「発行可能株式総数」を確認します
株式会社の登記記録には、会社が発行できる株式数の上限である「発行可能株式総数」が記載されています。
例えば、
- 発行可能株式総数 1,000株
- 現在の発行済株式総数 800株
という会社であれば、現在の枠内で新たに発行できるのは200株までです。
300株を発行しようとしても、発行可能株式総数を超えてしまいます。
この場合は、募集株式の発行に先立ち、または併せて、定款を変更して発行可能株式総数を増やすことを検討します。
定款変更には、原則として株主総会の特別決議が必要です。
会社の登記事項証明書と定款を確認せずに発行株式数を決めると、予定した増資ができないことがあります。
最初に、
現在の発行可能株式総数と発行済株式総数に、どれだけ差があるか
を確認しましょう。
募集事項を決めます
募集株式を発行するときは、会社法に基づいて「募集事項」を決定します。
代表的な募集事項には、次のようなものがあります。
- 募集株式の数
- 募集株式の払込金額
- 金銭以外の財産を出資する場合は、その内容と価額
- 払込期日または払込期間
- 増加する資本金および資本準備金に関する事項
誰が募集事項を決定するかは、その会社が公開会社か非公開会社か、取締役会を設置しているか、株主割当てか第三者割当てかなどによって異なります。
中小企業で多い非公開会社では、原則として株主総会の特別決議によって募集事項を決定します。
ただし、株主総会から取締役または取締役会へ募集事項の決定を委任できる場合や、既存株主に持株数に応じて割り当てる場合など、手続が異なることがあります。
会社の機関設計と定款を確認し、どの決議が必要なのかを判断しなければなりません。
発行価格は自由に決めてよい?
新しく発行する株式の払込金額は、会社の現在の状況を踏まえて決める必要があります。
設立時に1株1万円で発行したからといって、増資の際も必ず1株1万円にしなければならないわけではありません。
一方、会社の価値に比べて著しく低い金額で特定の人へ株式を発行すると、既存株主の利益を害する可能性があります。
このような「特に有利な金額」で株式を発行する場合には、その必要性について株主総会で説明し、所定の決議を行う必要があります。
また、税務上の問題が生じる可能性もあります。
既存株主以外の人から出資を受ける場合や、会社に利益・資産が蓄積して設立時より価値が高くなっている場合は、発行価格を安易に決めないことが重要です。
必要に応じて、税理士などと連携して株価を検討します。
株式の申込みと割当てを行います
募集株式を引き受けようとする人は、会社に対して申込みを行います。
会社は申込者の中から、誰に何株を割り当てるかを決定します。
既存株主や代表取締役だけが出資する小規模な会社では、
「出資する人は最初から決まっているから、形式的な書類は必要ない」
と思われがちです。
しかし、株式の発行は、新たな株主としての権利を発生させる手続です。
後になって、
- 何株を引き受けたのか
- 1株当たりの金額はいくらか
- いつ払込みを行うことになっていたのか
- 誰が割当てを決定したのか
が分からなくならないよう、決議書、申込書、割当てに関する書類などを整えておく必要があります。
一定の場合には、申込みと割当ての手続を、募集株式の総数を引き受ける契約によって行う方法もあります。
どの方法を使うかによって、作成する書類も変わります。
払込みは決められた期日・口座へ行います
募集株式を引き受ける人は、会社が定めた払込期日または払込期間内に、払込金額の全額を払い込みます。
払込先は、会社が定めた銀行などの払込取扱機関です。
登記申請では、実際に払込みがあったことを証明する書類が必要になります。
一般的には、
- 払込みが記録された預金通帳の写し
- インターネットバンキングの取引明細
- 会社代表者が作成する払込みがあったことの証明書
などを組み合わせて、払込証明書を作成します。
取引明細には、金融機関名、支店名、口座名義、口座番号、入金日、入金額などが確認できるようにします。
残高が十分にあることだけでは、募集株式の払込みがあったことの証明にはなりません。
誰から、いつ、いくら入金されたのかが確認できる形で記録を残す必要があります。
会社に対する貸付金を増資へ振り替えることもあります
代表者が以前から会社へ貸しているお金を、増資に利用したいという相談もあります。
例えば、会社が代表者に対して1,000万円の借入金返済義務を負っており、そのうち500万円を資本金へ振り替えたい場合です。
この方法は、一般に「デット・エクイティ・スワップ(DES)」と呼ばれることがあります。
会社に対する貸付金という債権を、現物出資する形で株式を取得します。
ただし、単に会計帳簿上で、
「役員借入金を資本金へ振り替えた」
と処理すれば完了するわけではありません。
現物出資として募集事項を決定し、対象となる債権や価額を明確にしたうえで、会社法に沿った手続を行う必要があります。
現物出資では、検査役の調査が必要になる場合と、一定の要件を満たして省略できる場合があります。
債務の存在や評価、税務上の取扱いも確認する必要があるため、資金を現金で払い込む通常の増資より慎重な検討が必要です。
払込金額の全額を資本金にしない方法もあります
株式の発行によって払い込まれた金額は、原則として資本金に組み入れます。
ただし、会社法上、払込金額の2分の1を超えない額については、資本金に組み入れず、資本準備金とすることができます。
例えば、1,000万円の出資を受けた場合に、
- 資本金 500万円
- 資本準備金 500万円
とする方法があります。
資本金の額は、会社の信用、許認可、税務、補助金、融資などに影響することがあります。
一方、資本金を大きくすれば、必ず会社にとって有利になるとは限りません。
会社の規模や今後の事業計画を踏まえ、資本金と資本準備金へどのように計上するかを、税理士とも相談して決めることが大切です。
増資をすると変更登記が必要です
募集株式の発行によって、
- 発行済株式総数
- 資本金の額
が変わった場合には、法務局へ変更登記を申請します。
発行可能株式総数も変更した場合は、その変更も登記します。
会社の登記事項に変更が生じたときは、原則として本店所在地において2週間以内に変更登記を申請する必要があります。
もっとも、払込期日を定めた場合と払込期間を定めた場合、新株予約権が行使された場合などでは、登記期限の考え方が異なることがあります。
「株主総会を開いた日から2週間」
と単純に判断するのではなく、株主としての権利が発生する日や、資本金の額が変更された日を確認する必要があります。
払込みが完了したら、登記期限を確認し、早めに申請準備を進めましょう。
登記申請にはどのような書類が必要?
募集株式の発行による変更登記では、会社の状況や採用した手続に応じて、例えば次のような書類を使用します。
- 株主総会議事録
- 取締役会議事録
- 株主リスト
- 募集株式の申込書
- 募集株式の総数引受契約書
- 株式の割当てを証する書面
- 払込みがあったことを証する書面
- 資本金の額の計上に関する証明書
- 現物出資財産に関する書面
- 委任状
すべての会社で、これら全部が必要になるわけではありません。
非公開会社か公開会社か、取締役会を設置しているか、誰が出資するか、現金出資か現物出資かなどによって必要書類は変わります。
別の会社で使った書式をそのまま流用すると、自社の機関設計や決議内容と合わないことがあります。
登記事項証明書、定款、株主名簿などを確認したうえで、自社の手続に合った書類を作成します。
登録免許税も必要です
資本金の増加による変更登記には、登録免許税がかかります。
原則として、増加した資本金の額に1,000分の7を乗じた金額で、計算した金額が3万円に満たない場合は3万円です。
例えば、資本金を100万円増やした場合には、
100万円 × 1,000分の7 = 7,000円
となりますが、最低額が適用されるため、登録免許税は3万円になります。
資本金を1,000万円増やした場合には、
1,000万円 × 1,000分の7 = 7万円
となります。
発行可能株式総数の変更など、ほかの登記事項も同時に変更する場合には、申請内容によって登録免許税の区分を確認する必要があります。
増資する金額を決める際は、専門家報酬だけでなく、登録免許税などの費用も見込んでおきましょう。
増資後は株主名簿や税務上の届出も確認します
変更登記が完了したら、それで関連手続がすべて終わるとは限りません。
新しい株式を発行した場合には、株主名簿へ新しい株主、保有株式数、取得日などを反映します。
新たに株主となった人には、今後の株主総会の招集通知や配当などにも関係します。
また、増資後の資本金の額によっては、法人税、地方税、消費税などの取扱いに影響する可能性があります。
金融機関、許認可庁、取引先などへ、増資後の登記事項証明書の提出を求められることもあります。
特に、許認可の要件として一定額以上の資本金や財産的基礎が求められている場合は、増資の時期と届出の順序を確認しておく必要があります。
登記だけでなく、税務・会計・許認可・社内管理まで含めて、増資後に必要な対応を整理しましょう。
資本金を増やす前に手続全体を確認しましょう
会社へお金を入れただけでは、資本金は自動的に増えません。
募集株式の発行によって増資する場合には、
- 現在の定款・発行可能株式総数・発行済株式総数を確認する
- 募集株式の数、払込金額、払込期日などを決める
- 株主総会や取締役会など、必要な決議を行う
- 株式の申込みや割当てを行う
- 決められた期日・口座へ払込みを行う
- 資本金・資本準備金の額を計算する
- 法務局へ変更登記を申請する
- 株主名簿や税務・許認可関係を更新する
という流れを確認します。
大志法務事務所では、
「会社へ追加で出資したい」
「代表者からの借入金を資本金へ振り替えたい」
「新しい株主から出資を受ける予定がある」
「発行可能株式総数が足りるか分からない」
「増資の議事録や登記書類を作成してほしい」
といったご相談に対応しています。
会社の定款、登記事項、株主構成、出資方法などを確認し、必要な決議書類の作成から資本金の変更登記までご案内します。
税務上の検討が必要な場合には、顧問税理士などとも連携しながら進めることが大切です。
増資を決めてから慌てて書類を整えるのではなく、実際にお金を動かす前に、決議・払込み・登記までの流れを確認しておきましょう。
参考情報
※2026年9月11日時点で確認した公式情報を基に作成しています。募集株式の発行に必要な決議や書類は、会社の機関設計、定款、株式の譲渡制限、割当方法、出資財産などによって異なります。
