遺言書を書けば、名義変更も自動で進む?
内容を実現する「遺言執行者」を決めておく意味
「自分が亡くなったら、この家は長男に相続させたい」
「預金の一部を、お世話になった人へ渡したい」
「家族が困らないように、遺言書を作っておこう」
遺言書を作成しておけば、自分の希望する財産の承継方法を残すことができます。
しかし、遺言書があるだけで、不動産の名義や預金口座の名義が自動的に変わるわけではありません。
遺言者が亡くなった後には、遺言書を確認し、相続人や財産を調査したうえで、不動産、預貯金、株式などについて具体的な手続を進める人が必要です。
その役割を担うのが、**「遺言執行者」**です。
今回は、遺言執行者とはどのような人なのか、どのような仕事をするのか、遺言書を作るときに指定しておく意味とともにご説明します。
遺言書は「手続の完了」ではありません
遺言書に、
「自宅の土地と建物を長男に相続させる」
と書いたとします。
遺言者が亡くなると、遺言は効力を生じます。
しかし、法務局が遺言者の死亡を自動的に確認して、長男名義へ相続登記をしてくれるわけではありません。
預貯金についても、銀行が自動的に解約して、遺言書に書かれた人へ振り込んでくれるわけではありません。
実際には、
・遺言書の内容を確認する
・相続人を調査する
・相続財産を調査する
・戸籍や登記事項証明書などを集める
・金融機関や法務局へ必要な手続をする
・財産を引き渡す
・手続の経過を記録する
といった作業が必要になります。
遺言書が「何を実現するか」を定めるものだとすれば、遺言執行者は、それを実際の手続へ移す人です。
遺言執行者とは?
民法では、遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な行為をする権利と義務を持つと定められています。
遺言執行者は、相続人の希望をまとめて遺産の分け方を決める人ではありません。
あくまで、遺言者が遺言書に残した内容を実現する立場です。
例えば、遺言書に、
「預金1,000万円をAさんへ遺贈する」
と書かれている場合、遺言執行者が自分の判断で、
「Aさんではなく、相続人で分けた方が公平だ」
と変更することはできません。
遺言書の内容に従い、必要な手続を正確に進めることが役割です。
遺言執行者は必ず指定しなければならない?
遺言執行者を指定していないからといって、遺言書が直ちに無効になるわけではありません。
遺言の内容によっては、財産を受け取る相続人などが自ら手続を進められる場合もあります。
一方、相続人が多い場合や、相続人以外の人へ財産を遺贈する場合、複数の金融機関や不動産がある場合には、誰が中心になって手続を進めるのか決まらず、遺言があっても手続が止まることがあります。
また、遺言による子の認知や相続人の廃除など、遺言執行者による手続が必要になる内容もあります。
したがって、
「遺言執行者を置くことが法律上必須か」
だけではなく、
遺言者が希望した内容を、亡くなった後に確実かつ円滑に実現できるか
という視点で考えることが大切です。
遺言執行者はどのような手続をする?
遺言の内容や財産の種類によって異なりますが、遺言執行者の主な仕事には次のようなものがあります。
・相続人の調査
・遺言書の内容を相続人へ通知する
・相続財産の調査
・財産目録の作成と相続人への交付
・預貯金の解約や払戻し
・有価証券などの名義変更
・不動産の相続・遺贈登記に必要な手続
・財産の売却や換価
・受遺者や相続人への財産の引渡し
・遺言執行の経過や結果の報告
ただし、遺言執行者に指定されたからといって、遺産について何でも自由にできるわけではありません。
遺言書に書かれている内容と、法律上認められた権限の範囲で行動します。
不動産登記は司法書士、相続税の申告は税理士、相続人間の紛争についての代理交渉は弁護士など、必要に応じて各専門家と連携することになります。
財産をもらわない相続人にも通知が必要です
例えば、遺言書に、
「全財産を長男に相続させる」
と書かれており、長男が遺言執行者に指定されていたとします。
この場合でも、長男だけで誰にも知らせず手続を終わらせてよいわけではありません。
遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく遺言の内容を相続人へ通知しなければなりません。
また、相続財産の目録を作成し、相続人へ交付する義務もあります。
遺言によって財産を取得しない相続人がいたとしても、その人を最初から除外してよいわけではありません。
「財産をもらう人だけに伝えればよい」
「遺留分のない相続人には知らせなくてもよい」
と自己判断せず、相続人を正しく確認して通知する必要があります。
相続人が勝手に財産を処分してよいわけではありません
遺言執行者がいる場合、相続人は、相続財産を勝手に処分するなど、遺言の執行を妨げる行為をすることはできません。
例えば、遺言によって特定の人へ渡すことになっている財産を、一部の相続人が無断で売却したり、預金を払い戻したりすると、権利関係が複雑になります。
民法は、遺言執行者がいる場合に相続人が行った遺言の執行を妨げる行為を、原則として無効としています。
もっとも、善意の第三者との関係など、個別に確認しなければならない問題もあります。
遺言書が見つかった場合は、財産を動かす前に、遺言執行者の指定があるかどうかを確認することが重要です。
家族を遺言執行者に指定しても大丈夫?
遺言執行者は、必ず弁護士や司法書士などの専門家でなければならないわけではありません。
未成年者と破産者を除き、相続人や親族を遺言執行者に指定することもできます。
例えば、
「長男に自宅を相続させ、長男を遺言執行者に指定する」
という内容も可能です。
家族を指定すれば、財産や家庭の事情をよく理解しているという利点があります。
一方で、遺言執行者には、戸籍の収集、財産調査、金融機関とのやり取り、財産目録の作成、各相続人への通知や報告など、相当な負担がかかります。
財産を多く受け取る相続人が遺言執行者になると、他の相続人から、
「自分に都合よく進めているのではないか」
と疑われることもあります。
家族関係、財産の種類、手続の難しさを考え、家族に任せるか、専門家を指定するかを検討します。
指定された人が必ず引き受けるとは限りません
遺言書に名前を書けば、その人が必ず遺言執行者になってくれるとは限りません。
指定された人は、遺言執行者への就任を断ることができます。
「頼まれていたことを知らなかった」
「高齢や病気で対応できない」
「仕事や家庭の事情で時間が取れない」
「相続人同士の対立に関わりたくない」
ということも考えられます。
遺言書を作るときは、候補者へ事前に説明し、引き受ける意思があるか確認しておくことが大切です。
また、指定した人が遺言者より先に亡くなった場合や、就任できない場合に備え、第二候補となる人を定めておく方法もあります。
なお、いったん就任を承諾した遺言執行者は、自由に辞められるわけではありません。
正当な理由がある場合に、家庭裁判所の許可を得て辞任することになります。
遺言執行者がいないときは家庭裁判所で選任できます
遺言書に遺言執行者の指定がない場合や、指定された人が亡くなっている、就任を断ったなどの理由で遺言執行者がいなくなった場合があります。
このときは、相続人、受遺者、遺言者の債権者などの利害関係人が、家庭裁判所へ遺言執行者の選任を申し立てることができます。
申立先は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
裁判所の案内では、申立てに必要な費用は、
・執行の対象となる遺言書1通につき収入印紙800円
・連絡用の郵便切手
とされています。
このほか、遺言者の死亡が記載された戸籍、遺言書の写し、遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票、利害関係を証明する資料などを準備します。
裁判所が申立人の希望した候補者を必ず選任するとは限りません。
家庭裁判所が遺言の内容や相続関係などを確認して判断します。
「遺言執行者=死後のことを全部する人」ではありません
遺言執行者は、遺言書に書かれた法律上の内容を実現する人です。
そのため、当然に、
・葬儀や納骨の手配
・入院費や施設費の精算
・賃貸住宅の明渡し
・電気、ガス、電話などの解約
・家財道具の処分
・SNSやオンラインサービスの解約
・ペットの引渡しや飼育の手配
まで、すべて行う権限を持つわけではありません。
こうした死後の事務まで特定の人に任せたい場合には、遺言書だけでなく、死後事務委任契約など別の準備が必要になることがあります。
「自分が亡くなった後にしてほしいこと」を整理し、遺言書へ書く内容と、それ以外の契約や準備で備える内容を分けて考えることが大切です。
遺言書を作るときは「誰が実行するか」まで考えましょう
遺言書を作るときは、
「誰に、どの財産を渡すか」
に意識が向きがちです。
しかし、遺言者が亡くなった後、実際に誰がその内容を確認し、財産を調査し、金融機関や法務局で手続をするのかも重要です。
特に、
・相続人が多い
・相続人同士の関係に不安がある
・相続人以外の人へ財産を渡したい
・不動産や預貯金が複数ある
・財産を売却して金銭で分けたい
・手続を任せられる家族が近くにいない
・認知や相続人の廃除について遺言したい
という場合は、遺言執行者の指定を検討する意味があります。
大志法務事務所では、遺言書の作成、遺言執行者を誰にするか、遺言内容に基づく相続登記などについてご相談を承ります。
遺言書を単に「書いて残す」だけで終わらせず、その内容を誰が、どのように実現するのかまで考えて準備しておきましょう。
参考情報
※制度や裁判所の取扱いは変更されることがあります。公開時点の公式情報を基に掲載しています。
