離婚届を出せば、自宅の名義も自動で変わる?
財産分与で不動産を引き継ぐときに必要な登記と注意点

「離婚後も妻と子どもが自宅に住み続けることになった」

「住宅ローンは夫が払い、家の名義は妻へ変更することで話がまとまった」

「離婚協議書に家を渡すと書いたから、名義も変わっているはず」

離婚の際、夫婦の一方が所有する土地や建物を、もう一方へ財産分与することがあります。

しかし、離婚届を市役所へ提出しても、法務局にある不動産の名義が自動的に変わるわけではありません。

離婚協議書を作成した場合や、公正証書にした場合も、それだけで登記記録が書き換わるわけではありません。

不動産を財産分与によって引き継ぐためには、別途、法務局へ財産分与を原因とする所有権移転登記を申請する必要があります。

今回は、離婚に伴って自宅などの不動産を引き継ぐときに確認したい登記、住宅ローン、税金などの注意点をご説明します。

離婚届と不動産登記は別の手続です

例えば、自宅の土地と建物が夫の単独名義になっており、離婚後は妻が取得することで合意したとします。

市役所へ離婚届を提出すると、戸籍には離婚したことが記載されます。

しかし、市役所から法務局へ、

「この夫婦は離婚し、自宅を妻が取得することになった」

という情報が自動的に送られ、所有者が変更されるわけではありません。

登記をしなければ、登記記録上の所有者は夫のままです。

固定資産税の納税通知書の送付先を妻へ変更したとしても、それだけで登記名義が変わるわけではありません。

戸籍、固定資産税、不動産登記は、それぞれ別の制度として管理されています。

財産分与とは?

財産分与とは、離婚した夫婦の一方が、もう一方に対して財産の分与を求めることができる制度です。

婚姻中に夫婦が協力して形成した財産の清算や、離婚後の生活保障などの意味があります。

対象になる可能性がある財産には、

・預貯金
・自宅などの不動産
・自動車
・有価証券
・生命保険の解約返戻金
・退職金

などがあります。

ただし、どの財産をどの割合で分けるかは、名義だけで機械的に決まるわけではありません。

婚姻前から持っていた財産、相続や贈与によって取得した財産、住宅ローンなどの負債も含め、夫婦の事情に応じて整理します。

今回扱うのは、財産分与の内容がまとまり、不動産を一方から他方へ移すことになった後の登記手続です。

合意書を作っただけでは名義変更は完了しません

離婚の際には、財産分与の内容を離婚協議書や公正証書にまとめることがあります。

例えば、

「夫は、財産分与として、妻に対し自宅の土地及び建物を譲渡する」

と定めます。

このような書面は、夫婦間で何を合意したのかを確認する重要な資料です。

しかし、書面を作成しただけで、登記名義まで自動的に妻へ移るわけではありません。

財産分与を原因とする所有権移転登記を申請し、法務局の登記記録に妻が所有者として記録されて、初めて第三者からも新しい名義を確認できる状態になります。

公正証書を作成した場合も、公正証書の作成と不動産登記は別の手続です。

登記の「日付」はいつになる?

財産分与による所有権移転登記には、登記原因の日付を記載します。

この日付は、離婚届を出した日とは限りません。

離婚後に財産分与の合意をした場合には、通常、その合意が成立した日が問題になります。

一方、離婚届を提出する前に、

「離婚が成立したら自宅を財産分与する」

と合意していた場合は、離婚が成立した日が登記原因の日になることがあります。

法務局の財産分与による所有権移転登記の記載例でも、協議離婚の届出前に財産分与の協議が成立していた場合は、協議離婚の届出日が原因日になると案内されています。

契約書の日付や離婚届の日付を見ただけで決めず、いつ離婚が成立し、いつ財産分与の合意が成立したのかを確認する必要があります。

協議による財産分与は、原則として双方で登記を申請します

話合いによる財産分与の場合、通常は、

・現在の登記名義人で、不動産を渡す人
・財産分与を受けて、新しく所有者になる人

の双方が共同して所有権移転登記を申請します。

不動産を渡す人は「登記義務者」、受け取る人は「登記権利者」と呼ばれます。

離婚協議書に、

「自宅は妻が取得する」

とだけ書かれていても、夫が登記手続に協力せず、権利証や印鑑証明書を用意してくれなければ、登記を円滑に進められないことがあります。

離婚後に連絡が取れなくなったり、関係がさらに悪化したりすることも考えられます。

そのため、不動産を財産分与する場合には、離婚の合意をするときに、

・どの土地・建物を渡すのか
・いつ登記を申請するのか
・誰が登記費用を負担するのか
・必要書類をいつ引き渡すのか
・住宅ローンをどのように扱うのか

まで具体的に決めておくことが大切です。

離婚調停、審判、判決などによって財産分与の内容が定められた場合は、その書面の内容によって一方から登記申請できることがありますが、個別の確認が必要です。

登記にはどのような書類が必要?

具体的な事情によって異なりますが、財産分与による所有権移転登記では、一般に次のような書類や情報を確認します。

・財産分与の内容を証明する登記原因証明情報
・不動産を渡す人の権利証または登記識別情報
・不動産を渡す人の印鑑証明書
・不動産を受け取る人の住民票などの住所証明情報
・固定資産評価額が分かる資料
・離婚したことが分かる戸籍事項証明書など
・司法書士へ依頼する場合の委任状

印鑑証明書は、原則として登記申請時から3か月以内のものが必要です。

また、登記名義人の住所や氏名が、現在の住民票や印鑑証明書と一致していない場合には、所有権移転登記の前提として住所・氏名の変更登記が必要になることがあります。

2026年4月1日から住所・氏名の変更登記も義務化されていますので、離婚による姓や住所の変更が登記に反映されているかも確認します。

住宅ローンが残っている家は特に注意が必要です

「家の名義を妻に変えて、住宅ローンは夫がそのまま払う」

という合意がされることがあります。

しかし、不動産の所有者と、住宅ローンを返済する債務者は別の問題です。

所有権移転登記をして妻が所有者になっても、金融機関との住宅ローン契約上の債務者が自動的に妻へ変わるわけではありません。

また、不動産に付いている抵当権も、財産分与による名義変更だけで消えるわけではありません。

登記後は、

「妻が所有する家に、夫の住宅ローンを担保する抵当権が付いている」

という状態になることがあります。

住宅ローン契約には、金融機関の承諾なく所有権を移転することを制限する条項が設けられている場合もあります。

ローンが残っている自宅を財産分与する場合には、登記を先に進めるのではなく、金融機関へ相談し、

・夫が返済を続けるのか
・妻が債務を引き受けられるのか
・妻名義で借り換えるのか
・自宅を売却してローンを返済するのか
・連帯保証人や連帯債務者をどうするのか

を整理する必要があります。

「財産分与なら税金はかからない」とは限りません

離婚に伴う財産分与では、受け取る人に贈与税がかかるのではないかと心配されることがあります。

国税庁は、離婚によって財産を受け取った場合、通常は贈与税がかからないと案内しています。

ただし、夫婦の協力によって得た財産などを考慮しても分与額が多過ぎる場合は、その多過ぎる部分に贈与税がかかることがあります。

また、税金を免れる目的で離婚したと認められる場合は、受け取った財産すべてに贈与税がかかることがあります。

さらに注意したいのは、不動産を渡す側に譲渡所得が課税される可能性があることです。

国税庁は、土地や建物を財産分与した場合、分与時の時価を収入金額として、不動産を渡した人に譲渡所得の課税が行われると案内しています。

現金を受け取っていなくても、購入時より不動産の時価が上がっていれば、税金が生じる可能性があります。

一方、不動産を受け取った人は、財産分与を受けた日の時価で取得したものとして扱われます。

将来その不動産を売却するときの取得費や所有期間にも関係します。

登録免許税も必要です

所有権移転登記を申請するときには、登録免許税がかかります。

財産分与による所有権移転登記の税率は、原則として固定資産課税台帳に登録された不動産の価格の**1,000分の20、つまり2%**です。

例えば、土地と建物の固定資産評価額の合計が1,000万円であれば、登録免許税は原則20万円となります。

これは司法書士へ依頼する場合の報酬とは別に、国へ納める税金です。

不動産を受け取る人に贈与税がかからないケースでも、登録免許税や、場合によっては不動産取得税などを検討する必要があります。

名義変更に必要な費用と税金を確認せず、

「家を受け取れば、それで終わり」

と考えないことが大切です。

財産分与を請求できる期間は5年に延びました

2026年4月1日に施行された改正民法により、離婚後に家庭裁判所へ財産分与を請求できる期間は、従来の2年から5年へ延長されました。

ただし、離婚した時期によって適用される期間が異なる場合があります。

また、この5年は、話合いがまとまらないときに家庭裁判所へ財産分与を求めることができる期間です。

「財産分与の合意をした後、登記を5年間放置しても問題ない」

という意味ではありません。

登記をしないままにしていると、

・元配偶者が登記手続に協力してくれなくなる
・必要書類を紛失する
・元配偶者が亡くなって相続が発生する
・差押えなど別の登記が入る
・固定資産税や修繕費の負担をめぐって争いになる
・売却や住宅ローンの借換えができない

といった問題につながることがあります。

財産分与の内容が確定したら、登記も早めに進めることが大切です。

離婚の合意と登記を切り離さずに考えましょう

不動産の財産分与では、

「誰が家に住み続けるか」

だけを決めても十分ではありません。

確認すべきことは、

・現在の登記名義は誰か
・土地と建物の両方が対象になっているか
・共有持分だけを移すのか
・住宅ローンと抵当権が残っているか
・金融機関の承諾が必要か
・登記に協力する時期と方法
・登録免許税や譲渡所得税などの負担
・固定資産税や管理費を誰が負担するか

など多岐にわたります。

大志法務事務所では、夫婦間で財産分与の内容がまとまっている場合の所有権移転登記や、その前提となる住所・氏名変更登記などを取り扱っています。

「離婚協議書に自宅のことを書いたが、登記はまだしていない」

「離婚後も元配偶者名義の家に住み続けている」

「住宅ローンが残っている家の名義変更を考えている」

という場合は、登記記録、合意内容、住宅ローンの状況を確認したうえで手続を進めます。

なお、財産分与の内容について当事者間に争いがある場合や、相手方との交渉が必要な場合は弁護士、税金の具体的な判断や申告については税理士への相談が必要です。

離婚届や合意書の作成だけで終わらせず、不動産の名義、住宅ローン、税金まで整理されているか確認しておきましょう。

参考情報

法務局「不動産登記の申請書様式について」

法務局「所有権移転登記申請書(財産分与)の記載例」

法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)」

国税庁「離婚して土地建物などを渡したとき」

国税庁「離婚して財産をもらったとき」

国税庁「登録免許税の税額表」

※制度、税制、金融機関の取扱いは変更されることがあります。公開時点の公式情報を基に掲載しています。