成年後見を申し立てれば、希望した家族が後見人になれる?
「候補者」と「家庭裁判所が選ぶ人」は同じとは限りません

「認知症になった母の預金を管理するため、長男である自分を成年後見人にしたい」

「申立書に家族の名前を書けば、その人が後見人に選ばれるのだろう」

「家族ではなく専門家が選ばれたら、費用はどうなる?」

成年後見制度の利用を考えるとき、このような疑問を持つ方は少なくありません。

法定後見の申立てでは、後見人になってほしい人を「成年後見人候補者」として記載できます。

しかし、候補者として名前を書いたからといって、その人が必ず成年後見人に選ばれるわけではありません。

最終的に成年後見人を選ぶのは家庭裁判所です。

今回は、家族を成年後見人候補者として申し立てた場合に、誰がどのように選ばれるのか、申立て前に何を確認しておくべきなのかをご説明します。

「申立人」と「成年後見人候補者」は別です

成年後見制度を利用するため家庭裁判所に手続を申し立てる人を、「申立人」といいます。

一方、制度が始まった後に本人の財産管理や生活上の手続を担当する人が、「成年後見人」です。

例えば、母親について成年後見制度を利用する場合、長男が申立人となり、同じ長男を成年後見人候補者として申し立てることもできます。

ただし、

申立人になったから成年後見人になれる

あるいは、

候補者として記載されたから成年後見人になれる

という仕組みではありません。

成年後見人候補者の記載は、家庭裁判所に対して「この人を候補として考えています」と伝えるものであり、家庭裁判所の判断を拘束するものではないからです。

成年後見人を選ぶのは家庭裁判所です

法定後見には、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」という類型があります。

いずれの場合も、家庭裁判所は本人にどのような支援が必要なのかを確認し、さまざまな事情を考慮して適任者を選びます。

確認される事情には、例えば次のようなものがあります。

・本人の心身や生活の状況
・本人が必要としている支援の内容
・本人の財産の種類や金額
・候補者の職業、経歴、健康状態
・本人と候補者との関係
・候補者と本人との間に利害の対立がないか
・ほかの親族がどのような意見を持っているか
・候補者が継続して財産管理や報告を行えるか
・これまで本人の財産がどのように管理されてきたか
・本人自身がどのような希望を持っているか

家庭裁判所は、これらを総合して、本人の保護と支援に最も適していると考えられる人を選任します。

したがって、本人と同居している家族や、これまで介護をしてきた家族であっても、それだけで必ず選任されるとは限りません。

家族が成年後見人に選ばれることもあります

もちろん、家族が成年後見人になれないということではありません。

本人の状況や財産関係が比較的分かりやすく、家族間に大きな対立がなく、候補者が適切に財産管理や家庭裁判所への報告を行えると判断されれば、親族が選任されることもあります。

一方で、家庭裁判所が必要と判断した場合には、

・弁護士
・司法書士
・社会福祉士
・成年後見業務を行う法人

などが選任されることがあります。

家族と専門職の二人を成年後見人として選ぶ「複数選任」や、家族を成年後見人に選んだ上で、専門職を「成年後見監督人」として選任する方法が取られることもあります。

大切なのは、家族か専門家かという肩書だけではなく、本人にとってどのような支援体制が適切かという視点です。

「成年後見人の8割以上が専門職」の意味には注意が必要です

最高裁判所事務総局家庭局が公表した令和7年、つまり2025年の統計では、選任された成年後見人等と本人との関係別件数のうち、親族は16.4%、親族以外は83.6%でした。

親族以外では、司法書士、弁護士、社会福祉士などが多く選任されています。

この数字だけを見ると、

「家族を候補者にしても、8割以上は選ばれない」

と思われるかもしれません。

しかし、その理解は正確ではありません。

同じ統計によると、申立てが認容された事件のうち、申立ての時点で親族が候補者として記載されていた事件は19.7%で、親族候補者がいなかった事件は80.3%でした。

つまり、親族以外の成年後見人等が多い背景には、そもそも親族候補者が記載されていない申立てが多いという事情があります。

この統計から「親族候補者の8割以上が家庭裁判所に拒否された」と判断することはできません。

専門職が選ばれる可能性があるのはどのような場合?

家庭裁判所は個々の事情に応じて判断するため、「この条件なら必ず専門職になる」という一律の基準があるわけではありません。

ただし、次のような事情がある場合には、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれたり、成年後見監督人が付されたりする可能性があります。

・本人の財産が多額または複雑である
・不動産の売却や遺産分割など専門的な手続が予定されている
・本人と候補者との間で利益が対立する可能性がある
・親族間に意見の対立がある
・候補者による過去の預金管理について確認が必要である
・候補者が高齢、遠方居住などの理由で継続的な管理が難しい
・本人の生活上、法律上の課題が複数ある

例えば、家族が本人の預金から立て替え分を精算していたものの、領収書や記録が残っていない場合、そのお金の流れについて説明を求められることがあります。

家族が不正をしたという意味ではなくても、成年後見人には本人の財産を明確に管理する役割があるため、申立て前の財産管理状況も重要な確認事項になります。

専門職が選ばれた場合の報酬はどうなる?

弁護士や司法書士などの専門職が成年後見人等に選任された場合、その専門職は家庭裁判所に報酬付与の申立てを行うことができます。

家庭裁判所が本人の財産額、行った職務の内容や期間などを考慮して報酬額を決定し、原則として本人の財産から支払われます。

専門職本人や家族が自由に報酬額を決めるわけではありません。

また、家族が成年後見人に選ばれた場合でも、専門職の成年後見監督人が選任されれば、その監督人について報酬が発生することがあります。

財産の内容によっては、「後見制度支援信託」や「後見制度支援預貯金」の利用が検討される場合もあります。

申立てをする際には、家族が候補者になれるかだけでなく、専門職や監督人が選任される可能性と、その場合の継続的な費用についても理解しておく必要があります。

家族が選ばれても、家族のお金として扱うことはできません

家族が成年後見人に選ばれた場合でも、本人の財産を自由に使えるわけではありません。

本人のお金と成年後見人自身のお金を明確に分け、本人のために管理する必要があります。

選任後は、本人の財産や収支を調査し、財産目録や収支予定表などを家庭裁判所へ提出します。その後も、通帳、領収書、契約書などを保管し、定期的に財産管理や身上保護の状況を報告します。

「家族だから細かな記録は必要ない」

「いずれ相続するお金だから、今使っても問題ない」

という考え方は通用しません。

この点については、第26回のコラム「成年後見人になれば、家族の財産を自由に使える?」でも詳しくご説明しています。

家族を候補者にする場合には、候補者本人がこうした継続的な職務を理解し、実際に対応できるかも確認しておくことが大切です。

希望した人が選ばれないからといって、簡単に取り下げられるとは限りません

申立てをした後に、

「家族ではなく専門家が選ばれそうだから、申立てをやめたい」

と思うことがあるかもしれません。

しかし、成年後見開始などの申立てを取り下げるには、家庭裁判所の許可が必要です。

候補者として挙げた家族が選ばれないことや、成年後見監督人が選任されることへの不満だけを理由として、当然に取下げが認められるわけではありません。

また、家庭裁判所が誰を成年後見人に選んだかという選任そのものについて、候補者が選ばれなかったことを理由に不服申立てをすることもできません。

成年後見制度は、申立人や家族の希望を実現するための制度ではなく、本人を保護し支援するための制度だからです。

申立てをする前に、希望どおりの選任にならない可能性も含め、家族で十分に検討しておく必要があります。

申立て前に整理しておきたいこと

成年後見制度の申立てを検討するときは、少なくとも次の事項を整理しておくとよいでしょう。

・なぜ成年後見制度が必要なのか
・具体的にどの手続ができず困っているのか
・本人が現在どこで、どのように生活しているか
・本人の預貯金、不動産、保険、負債などの内容
・本人の毎月の収入と支出
・これまで誰が本人のお金を管理してきたか
・過去の大きな出金について資料や説明があるか
・本人は成年後見制度の利用をどう考えているか
・ほかの親族は候補者についてどう考えているか
・候補者が継続して記録や報告を行えるか
・専門職や監督人が選任される可能性を理解しているか

特に、通帳の管理状況や過去の出金については、申立ての直前になって慌てて確認するのではなく、できるだけ早い段階で整理しておくことが重要です。

分からない出金がある場合も、隠したり推測で説明したりせず、残っている資料を集めて事実関係を確認します。

「誰を後見人にするか」だけでなく、本人に必要な支援から考えましょう

家族としては、

「本人のことを一番よく知っている自分が後見人になりたい」

と考えることも自然です。

一方で、成年後見人の仕事には、日常的な支払いや契約だけでなく、財産の記録、家庭裁判所への報告、不動産や相続に関する手続などが含まれることがあります。

介護や見守りを家族が担当し、法律上・財産上の手続を専門職が担当する方が、本人にとって安定した支援になる場合もあります。

申立て前には、

「家族が選ばれるか」

だけではなく、

「本人にはどのような支援が必要で、誰がどの役割を担うのがよいか」

という視点で検討することが大切です。

成年後見制度の申立ては、事前の準備が重要です

大志法務事務所では、成年後見制度の申立書類の作成支援を取り扱っています。

本人の生活状況、財産内容、申立てが必要となった事情などを確認しながら、必要書類や手続の流れをご案内します。

また、家族を成年後見人候補者として申し立てる場合にも、家庭裁判所が別の人を選任する可能性、専門職や成年後見監督人が選任された場合の考え方などをご説明します。

ただし、特定の候補者が必ず成年後見人に選任されると保証することはできません。選任を決定するのは家庭裁判所です。

「家族を候補者にしてよいのか」

「これまでの財産管理をどう説明すればよいのか」

「専門職が選ばれる可能性も考えておきたい」

という場合は、申立てをする前に状況を整理しておくことをおすすめします。

なお、成年後見制度を見直すための改正法は2026年6月に成立・公布されていますが、2026年9月16日現在、改正後の制度はまだ施行されていません。

この記事は現行制度を前提としています。今後、改正法の施行日や具体的な運用が公表された場合には、最新の公式情報を確認する必要があります。

参考情報

厚生労働省 成年後見はやわかり
成年後見人等の選任方法

厚生労働省 成年後見はやわかり
成年後見人等に選任された方へ

最高裁判所事務総局家庭局
成年後見関係事件の概況―令和7年1月~12月―

裁判所
後見開始の審判

名古屋家庭裁判所
成年後見制度の手続案内

大阪家庭裁判所
成年後見等申立ての手順について

e-Gov法令検索
民法

法務省
成年後見制度の見直し

※制度改正などがあるテーマは、公開時点の情報をもとに掲載しています。