会社の社長が突然亡くなったら、会社は自動的に終わる?
代表取締役の後任選びと「死亡による変更登記」
「会社の社長が突然亡くなった」
「社長が会社の実印や通帳をすべて管理していた」
「家族が会社を引き継ぐ予定だが、すぐに契約や支払いをしてもよいのだろうか」
中小企業では、代表取締役が営業、契約、銀行取引、従業員への給与支払いなど、会社の重要な手続を一人で担っていることがあります。
その代表取締役が突然亡くなると、残された家族や役員は、
「会社も解散するのか」
「長男がそのまま社長を引き継げるのか」
「誰が会社を代表して手続をすればよいのか」
と戸惑うことになります。
しかし、代表取締役が亡くなったからといって、会社が自動的に解散したり、相続人が自動的に社長になったりするわけではありません。
会社の機関設計や定款、ほかの役員、株主の状況を確認し、後任者の選任と変更登記を進める必要があります。
今回は、株式会社の代表取締役が亡くなった場合に、まず何を確認し、どのような手続が必要になるのかをご説明します。
「社長」と「代表取締役」は必ずしも同じではありません
一般には会社のトップを「社長」と呼びます。
しかし、「社長」は会社内部で使われる役職名であり、会社法上の正式な機関ではありません。
会社を代表して契約を締結したり、法務局や銀行などで手続をしたりする権限を持つ人は、通常、「代表取締役」として登記されています。
会社によっては、
・代表取締役社長
・代表取締役会長
・取締役社長
・社長執行役員
など、さまざまな名称が使われています。
そのため、社長が亡くなった場合には、まず会社の登記事項証明書を取得し、
・亡くなった人が取締役として登記されているか
・代表取締役として登記されているか
・ほかに代表取締役がいるか
・ほかの取締役が何人いるか
・取締役会設置会社かどうか
を確認する必要があります。
社内で「社長」と呼ばれていたことだけでは、必要な登記手続を判断できません。
代表取締役が亡くなっても、会社はなくなりません
株式会社が解散する原因は、会社法で定められています。
定款で定めた存続期間の満了、株主総会による解散決議、合併、破産手続開始の決定などが代表的なものです。
代表取締役や取締役の死亡は、それだけで会社が解散する原因にはなっていません。
したがって、代表取締役が亡くなっても、株式会社自体はそのまま存続します。
会社が所有している預金、不動産、自動車、機械、売掛金なども、亡くなった代表取締役個人の相続財産になるわけではありません。
会社の財産は、あくまで会社の財産です。
一方、亡くなった人が所有していた会社の株式は、その人個人の財産ですから、相続の対象になります。
ここでは、会社の財産と、亡くなった人が持っていた株式を分けて考えることが大切です。
相続人が自動的に代表取締役になるわけではありません
例えば、父親が会社の代表取締役で、その長男が会社で働いていたとします。
父親が亡くなった後、家族全員が、
「長男が会社を継ぐ」
と考えていたとしても、長男が死亡した翌日から自動的に代表取締役になるわけではありません。
代表取締役になるには、まず取締役であることが必要です。
長男がまだ取締役でなければ、原則として株主総会で取締役に選任し、その後、会社の機関設計や定款に従って代表取締役を選定します。
すでに長男が取締役であった場合も、当然に代表取締役へ昇格するわけではありません。
取締役会設置会社であれば、通常は取締役会で代表取締役を選定します。
取締役会を設置していない会社では、定款の定め、株主総会の決議、取締役同士の互選など、会社ごとに代表取締役の選び方が異なります。
そのため、後任を決める前に、登記事項証明書だけでなく現在の定款も確認する必要があります。
ほかに代表取締役がいる場合はどうなる?
代表取締役が二人以上いる会社で、そのうち一人が亡くなった場合、通常は残っている代表取締役が引き続き会社を代表できます。
ただし、亡くなった代表取締役についての変更登記は必要です。
また、定款で代表取締役の人数を定めている場合や、会社運営上、新しい代表取締役を選ぶ必要がある場合には、後任者の選定も行います。
「もう一人代表者がいるから、何もしなくてもよい」
というわけではありません。
現在の役員構成が定款や会社法上必要な人数を満たしているかも確認する必要があります。
代表取締役が一人しかいなかった場合は注意が必要です
代表取締役が一人だけだった会社では、その人が亡くなると、会社を代表する人が不在になることがあります。
代表者がいなければ、会社名義で契約を締結したり、不動産の登記を申請したり、金融機関で代表者変更の手続をしたりすることが難しくなります。
もっとも、別の取締役が残っていれば、その人が自動的に新しい代表取締役になるとは限りません。
誰が会社を代表することになるのかは、
・取締役会を設置しているか
・取締役が何人残っているか
・定款にどのような定めがあるか
・代表取締役をどの方法で選ぶ会社か
によって異なります。
取締役会設置会社で、代表取締役だけが亡くなり、ほかの取締役が残っている場合は、取締役会を開催して後任の代表取締役を選定することが考えられます。
一方、取締役も代表取締役も一人だけの会社では、まず新しい取締役を選任する必要があります。
一人株主・一人取締役の会社では、株式の相続も問題になります
中小企業では、一人の経営者が、
・会社の全株式を所有する株主
・唯一の取締役
・唯一の代表取締役
を兼ねていることがあります。
この人が亡くなった場合、後任の取締役を選任する株主総会を開こうとしても、その前提となる株式が相続の対象になります。
株式を誰が相続するかが遺言書や遺産分割協議で決まっていれば、その承継内容を確認します。
株式が遺産分割前で複数の相続人の共有状態になっている場合には、株主としての権利をどのように行使するかを整理しなければなりません。
「長男が会社を継ぐ予定だから、長男だけで株主総会を開けばよい」
とは限りません。
株式の帰属や株主権の行使方法を確認しないまま後任者を選ぶと、その決議の有効性が後から問題になる可能性があります。
事業承継を考える際には、会社の経営権だけでなく、会社の株式を誰に引き継がせるのかを生前に決めておくことが重要です。
死亡と後任者について変更登記が必要です
取締役や代表取締役が死亡すると、その人は死亡した日に退任します。
亡くなった人については、
「令和○年○月○日死亡」
という役員変更登記を申請します。
後任の取締役や代表取締役を選任した場合には、その就任についても登記します。
法務局の記載例では、役員の死亡による退任と、新しい役員の就任を一つの申請で登記する方法も案内されています。
登記には、一般に次のような書類が関係します。
・亡くなった事実を確認できる書面
・株主総会議事録
・取締役会議事録または取締役の互選書
・就任承諾書
・株主リスト
・新しい代表取締役の印鑑届書
・委任状
ただし、必要書類は、取締役会の有無、定款の内容、後任者の選び方などによって異なります。
亡くなった事実を確認できる書面だけを法務局へ提出すれば、後任者まで自動的に登記されるわけではありません。
登記の期限は原則として変更から2週間以内です
株式会社の登記事項に変更が生じた場合、原則として、本店所在地において変更が生じた日から2週間以内に変更登記を申請する必要があります。
取締役や代表取締役が死亡した場合も、死亡による退任は登記事項の変更に当たります。
後任者を選任した場合には、その就任についても期限内に登記しなければなりません。
葬儀や相続の手続が続く中で、会社の登記は後回しになりやすいものです。
しかし、登記を放置すると、登記事項証明書には亡くなった人が代表取締役として残り続けます。
銀行、取引先、許認可官庁、不動産取引などの手続で問題になることがありますので、早めに現在の役員構成を確認することが大切です。
会社の実印や印鑑カードは、そのまま使ってよい?
代表取締役が亡くなった場合、会社の実印そのものがなくなるわけではありません。
ただし、その印鑑は、亡くなった代表取締役が会社の代表者として法務局へ届け出ていたものです。
後任の代表取締役が決まったら、変更登記と併せて新しい代表者による印鑑の届出や、印鑑カードに関する手続を確認する必要があります。
会社の実印が見つからない場合や、誰が管理しているのか分からない場合には、無理に探し回るだけでなく、印鑑の改印も含めて検討します。
また、会社名義の預金についても、相続人が自由に引き出せるわけではありません。
金融機関ごとに必要書類は異なりますが、新しい代表取締役の登記事項証明書、印鑑証明書、会社の届出書類などを求められることがあります。
従業員の給与や取引先への支払いが迫っている場合には、金融機関への確認も早めに行う必要があります。
「亡くなった社長の家族だから」という理由だけでは契約できません
会社の株式を相続することと、会社の代表取締役になることは別の問題です。
相続人である配偶者や子どもであっても、正式に代表取締役へ就任していなければ、当然に会社を代表して契約できるわけではありません。
例えば、
・会社所有の不動産を売却する
・会社名義で融資を受ける
・重要な取引契約を締結する
・会社の事業を第三者へ譲渡する
といった場面では、誰に会社の代表権があるのかが重要になります。
急いでいるからといって、相続人が亡くなった代表取締役の名前や印鑑を使って手続をすることはできません。
まず適法に後任者を選び、必要な変更登記を行う必要があります。
すぐに後任者を決められない場合もあります
親族間で会社を誰が継ぐのか決まらない、株式の帰属について争いがある、残っている役員だけでは必要な決議ができないなど、後任者を速やかに決められないこともあります。
代表取締役が不在のままでは会社に重大な損害が生じるおそれがあり、通常の方法では後任者を選べない場合には、利害関係人の申立てにより、裁判所が一時的に職務を行う者を選任する制度が問題になることもあります。
ただし、これは通常の後任者選びに代わって当然に利用できる制度ではありません。
会社の機関設計、残っている役員、株主構成、緊急性などを確認し、個別に対応を検討する必要があります。
代表取締役が元気なうちに確認しておきたいこと
代表取締役の急な死亡による混乱を減らすためには、平常時から次の事項を確認しておくことが大切です。
・最新の定款がどこに保管されているか
・会社の株主が誰で、何株持っているか
・株主名簿が整備されているか
・ほかの取締役や代表取締役がいるか
・会社の実印、印鑑カード、通帳を誰が管理しているか
・重要な契約や借入れの内容
・給与や取引代金の支払日
・許認可事業について代表者変更の届出が必要か
・会社の株式を誰に承継させるか
・後継者を取締役にしておく必要がないか
遺言書で会社の株式を誰に相続させるか定めることも、事業承継対策の一つです。
ただし、株式を相続させるだけで、その人が自動的に代表取締役になるわけではありません。
株式の承継と役員の選任を一体として考える必要があります。
会社を止めないため、早めに登記と株式の状況を確認しましょう
代表取締役が亡くなったときは、葬儀や個人の相続手続だけでなく、会社についても早急に確認しなければならない事項があります。
特に、
・代表取締役が一人しかいなかった
・取締役も株主も亡くなった人一人だけだった
・定款や株主名簿が見つからない
・会社の実印や印鑑カードの保管場所が分からない
・相続人の間で会社を誰が継ぐか決まっていない
・従業員の給与や取引先への支払いが迫っている
・会社名義の不動産を売却する予定がある
という場合には、会社の登記事項、定款、株式の状況を早めに整理する必要があります。
大志法務事務所では、株式会社の役員変更登記、代表取締役の変更登記、定款や株主構成の確認、会社の株式を含む相続手続についてご相談を承っています。
会社ごとに必要な決議や書類は異なります。
「家族が会社を継ぐことは決まっているから大丈夫」と考えて手続を先送りせず、会社を代表する人が不在になる期間をできるだけ短くすることが大切です。
代表取締役が亡くなったときは、個人の相続と会社の手続を分けて整理し、両方を並行して進めましょう。
参考情報
法務局
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株式会社変更登記申請書―役員の辞任・死亡と新たな役員の就任
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