相続人に未成年の子がいたら、親が代わりに遺産分割できる?
親子がともに相続人になる場合は「特別代理人」が必要です
「夫が亡くなり、妻と未成年の子どもが相続人になった」
「子どもはまだ小さいので、母親が代わりに遺産分割協議書へ署名すればよいだろう」
「家族の中では話がまとまっているから、特別な手続は必要ないのでは?」
相続人の中に未成年の子どもがいる場合、このように考える方もいるかもしれません。
未成年者は、原則として自分だけで遺産分割協議をすることができません。
通常であれば、親権者である父母が未成年の子を代理します。
しかし、親権者と未成年の子が同じ相続について共同相続人になる場合、親権者が子を代理して遺産分割協議を行うことはできません。
親が自分の相続分を増やせば、子の相続分が減る可能性があるため、親と子の利益が対立する関係になるからです。
このような場合に、家庭裁判所で選任してもらうのが、**「特別代理人」**です。
今回は、相続人に未成年の子がいる場合の遺産分割と、特別代理人の役割についてご説明します。
18歳未満の相続人も、相続する権利を持っています
子どもであっても、相続人としての権利がなくなるわけではありません。
例えば、夫が亡くなり、妻と15歳の子ども一人が相続人になった場合、法律上の相続分は原則として、
・妻 2分の1
・子 2分の1
です。
未成年だからといって、その相続分を当然に親が取得できるわけではありません。
遺産分割協議では、預貯金、不動産、株式、自動車などの遺産を、誰がどのように取得するかを相続人全員で決めます。
相続人が未成年の場合も、その子は遺産分割協議の当事者です。
ただし、未成年者本人が単独で有効な遺産分割協議を行うことには制限があるため、適切な代理人が必要になります。
普段は親権者が未成年の子を代理します
未成年者が契約などの法律行為をする場合、一般には親権者が法定代理人として手続を行います。
例えば、未成年の子が相続人であっても、親権者自身がその相続の相続人ではない場合には、親権者が子を代理できることがあります。
一方、親権者と未成年の子が同じ遺産を相続する場合には事情が異なります。
親権者が、
「自宅は母が取得する」
「預貯金も母が多く取得する」
という内容の遺産分割協議を、子の代理人として同時に決めると、親権者が自分の立場と子の立場の両方を代表することになります。
親の取得分が増えれば、子の取得分が減る可能性があります。
そのため、親権者が子を代理することは、親と子の利益が相反する行為として制限されます。
家族仲が良くても「利益相反」になります
ここでいう利益相反は、
「親が子どもの財産を奪おうとしている」
「家族の関係が悪い」
という意味ではありません。
親が子どもの将来を真剣に考え、家族全員が遺産分割の内容に納得していたとしても、親と子が共同相続人になる遺産分割協議は、外形上、利益相反行為に当たります。
例えば、
「自宅は母が取得するが、子どもが成人するまで母が維持管理する」
「預貯金は子どもの学費や生活費として使う」
という事情があっても、親権者が当然に子を代理できるわけではありません。
利益相反に当たるかどうかは、親が実際に悪意を持っているかではなく、その法律行為の外形から親と子の利害が対立する可能性があるかによって判断されます。
必要になるのが家庭裁判所の「特別代理人」です
親権者と未成年の子の利益が相反する場合、親権者などが家庭裁判所へ申し立て、未成年者のために特別代理人を選任してもらいます。
特別代理人は、今回の遺産分割協議について、未成年者に代わって内容を確認し、協議書へ署名する役割を担います。
親権者に代わって、子どもの利益を守る立場から遺産分割協議へ参加する人です。
特別代理人が選任されたからといって、親権者としての立場全体が失われるわけではありません。
特別代理人の権限は、家庭裁判所が定めた特定の法律行為に限られます。
遺産分割協議のために選任された場合は、その遺産分割協議に関する代理が中心となります。
特別代理人は家族や親族でもよい?
特別代理人の候補者について、法律上、弁護士や司法書士などの資格が必須とされているわけではありません。
祖父母、叔父、叔母などの親族を候補者として申し立てることもあります。
ただし、誰でもよいわけではありません。
その相続について利害関係がなく、未成年者の利益を適切に守れる人であることが必要です。
候補者自身が共同相続人である場合や、遺産分割の内容によって直接利益を受ける立場である場合には、候補者として適切でない可能性があります。
また、申立書に候補者を記載しても、必ずその人が選任されるとは限りません。
最終的に誰を特別代理人として選任するかは、家庭裁判所が判断します。
未成年の子が二人以上いる場合はどうなる?
例えば、夫が亡くなり、妻と未成年の子ども二人が相続人になったとします。
この場合、妻とそれぞれの子の間だけでなく、子ども同士の取得内容も相互に影響します。
長男の取得分が増えれば、次男の取得分が減る可能性があるためです。
同じ親権者が複数の子を一括して代理することにも、利益相反の問題が生じます。
そのため、未成年の子が複数いる場合には、原則として、それぞれの子について別の特別代理人が必要になることがあります。
「母親が子ども二人をまとめて代理する」
「一人の特別代理人が子ども二人をまとめて代理する」
という形でよいとは限りません。
相続人の人数と関係を確認し、誰について特別代理人の選任が必要なのかを整理する必要があります。
家庭裁判所への申立ては誰が行う?
特別代理人の選任は、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てます。
申立てをすることができるのは、親権者、未成年後見人、利害関係人です。
裁判所の案内では、一般に次のような書類が必要とされています。
・特別代理人選任申立書
・未成年者の戸籍謄本
・親権者または未成年後見人の戸籍謄本
・特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
・遺産分割協議書案
・遺産の内容が分かる資料
・申立人が利害関係人である場合は、その関係を示す資料
戸籍などについては、同じ書類を重複して提出する必要がない場合もあります。
裁判所によって追加資料の提出を求められることがありますので、申立先の案内を確認する必要があります。
費用は子ども一人につき収入印紙800円です
裁判所の案内では、特別代理人選任の申立てに必要な費用として、
・未成年の子一人につき収入印紙800円
・連絡用の郵便料
が示されています。
郵便料や納付方法は、申立てをする家庭裁判所によって異なります。
このほか、戸籍謄本、住民票、不動産の登記事項証明書などを取得する費用がかかることがあります。
専門家へ申立書の作成や相続登記を依頼する場合には、別途報酬が必要です。
遺産分割協議書は、申立て前に案を作成します
特別代理人の選任を申し立てる際には、通常、予定している遺産分割協議書の案を家庭裁判所へ提出します。
家庭裁判所は、特別代理人を選任する必要性だけでなく、予定されている遺産分割の内容が未成年者にとって不利益にならないかも確認します。
例えば、遺産に十分な預貯金や不動産があるのに、
「未成年の子の取得分はゼロとする」
という内容であれば、その理由や子どもの利益がどのように確保されるのかについて、説明や資料を求められる可能性があります。
親が、
「今後の生活費や学費は私が負担するから、遺産はすべて私が取得したい」
と考えていても、その説明だけで必ず認められるとは限りません。
未成年者の法定相続分が確保されているかどうかは、家庭裁判所が確認する重要な要素になります。
法定相続分と異なる分け方を希望する場合には、その必要性と未成年者に不利益がないことを具体的に説明する必要があります。
特別代理人が選任される前に協議書へ署名してもよい?
特別代理人が必要なケースで、親権者が未成年の子を代理して遺産分割協議書へ署名しても、適切な代理権がないため、そのまま相続登記などに使用することはできません。
また、特別代理人を候補者として申し立てている段階では、まだその人に代理権はありません。
家庭裁判所の審判によって特別代理人が選任され、その審判が確定した後に、選任された特別代理人が協議内容を確認して署名します。
遺産分割協議を急ぐ事情があっても、家庭裁判所の手続を省略することはできません。
親が相続放棄をすれば、特別代理人は不要になる?
親権者が家庭裁判所で相続放棄をし、共同相続人ではなくなった場合には、親と子の利益相反関係が解消され、親が子を代理できることがあります。
ただし、相続放棄は、
「特別代理人の手続を省くため」
だけに安易に選ぶものではありません。
相続放棄をすると、原則として預貯金や不動産などの積極財産も取得できなくなります。
また、相続放棄によって次の順位の相続人が新たに相続人となり、別の問題が生じる場合もあります。
未成年の子についても相続放棄を検討する場合には、親と子の利益相反が問題となり、特別代理人が必要になることがあります。
借金の有無、遺産の内容、ほかの相続人への影響を確認せず、手続の簡略化だけを理由に相続放棄を選ぶことは避けましょう。
遺言書があれば、必ず特別代理人が不要になる?
亡くなった人が有効な遺言書を残し、誰がどの財産を取得するかが具体的に決められている場合には、相続人全員で遺産分割協議をする必要がないことがあります。
その場合、遺産分割協議のための特別代理人が不要となる可能性があります。
ただし、
・遺言書に記載されていない財産がある
・遺言内容とは異なる分け方をしたい
・遺言書の解釈に問題がある
・未成年者の遺留分や権利関係を検討する必要がある
・遺言執行者との間で利益相反が生じる
といった場合には、別の対応が必要になることがあります。
「遺言書があるから何も問題はない」と判断せず、遺言書の内容と相続人の関係を確認しましょう。
子どもが18歳になるまで待つ方法もあります
現在の民法では、成年年齢は18歳です。
未成年の相続人が間もなく18歳になる場合には、成年に達するまで遺産分割協議を待ち、その後、本人が協議へ参加する方法も考えられます。
ただし、遺産分割を待っている間も、預貯金の管理、不動産の維持費、固定資産税、住宅ローン、賃貸物件の管理などが続きます。
また、相続登記は、原則として不動産を相続したことを知った日から3年以内に申請する義務があります。
遺産分割が成立していない間の相続登記や、相続人申告登記の利用を検討しなければならない場合もあります。
「成人するまで何もしない」という意味ではありません。
相続財産の管理と期限のある手続を確認した上で判断する必要があります。
未成年の相続人がいるときは、協議書を作る前に確認を
相続人に未成年の子がいる場合、次の点を早めに確認しましょう。
・未成年者は何人いるか
・親権者は誰か
・親権者自身も共同相続人か
・遺言書があるか
・遺産分割協議が必要か
・特別代理人の候補者になれる人がいるか
・予定している分割内容で子どもの利益が守られているか
・相続放棄や相続登記の期限は問題ないか
家族の話合いがまとまった後に特別代理人が必要だと分かると、相続手続全体が予定より長くなることがあります。
特に、不動産の売却、預貯金の解約、相続税の申告などを予定している場合は、家庭裁判所の手続に要する期間も考慮しなければなりません。
大志法務事務所では、相続人の確認、遺産分割協議書案の作成、特別代理人選任申立書の作成、相続登記まで、状況に応じて手続をご案内しています。
相続人に未成年の子がいることが分かったら、遺産分割協議書へ署名する前にご相談ください。
参考情報
裁判所
遺産分割調停
e-Gov法令検索
民法
法務省
相続登記の申請義務化について
※制度改正などがあるテーマは、公開時点の情報を元に掲載しています。
