会社の株式を子どもに相続させたい。でも経営権は渡したくない!そんなことはできる?
議決権のない株式・種類株式・黄金株を使った事業承継の仕組みを解説します
「会社の株式を、将来は2人の娘に平等に相続させたいと思っています」
「でも、2人とも同じように経営に口を出せるようになると、会社の方針がまとまらなくなるのではないかと心配です」
「株式を持って配当は受け取れるけれど、経営には関与しない。そんな仕組みは作れないのでしょうか?」
中小企業の事業承継では、このような相談があります。
会社の株式には、財産としての価値がある一方で、会社の経営に関与するための権利もあります。
そのため、単純に株式を半分ずつ相続させると、財産を平等に分けられても、会社の経営について意見が対立する可能性があります。
実は、会社法には、株式の権利を一定の範囲で分ける仕組みが用意されています。
それが「種類株式」です。
今回は、議決権のない株式や、いわゆる黄金株を活用した事業承継について、分かりやすく解説します。
1.株式を持つと、どのような権利がある?
株式会社の株主には、さまざまな権利があります。
代表的なものは、次の3つです。
- 議決権:株主総会で議案について賛成・反対の意思を示す権利
- 剰余金の配当を受ける権利:会社が配当を行う場合に、その配当を受ける権利
- 残余財産の分配を受ける権利:会社を清算した際に、残った財産の分配を受ける権利
例えば、父親が会社の株式を100株持っている場合、その株式を娘2人に50株ずつ相続させれば、通常は、それぞれが50株に応じた議決権を持つことになります。
しかし、株式を半分ずつ所有することが、必ずしも会社の円滑な経営につながるとは限りません。
株主総会で意見が対立し、重要な決議ができなくなる可能性もあるからです。
そこで検討したいのが、株式の権利内容を分ける方法です。
2.「種類株式」とは何?
会社法第108条では、株式会社が、一定の事項について内容の異なる2種類以上の株式を発行できることを定めています。
例えば、次のような株式です。
普通株式
一般的な議決権や配当を受ける権利などを持つ株式です。
議決権制限株式
株主総会の全部または一部の事項について、議決権を行使できない株式です。
配当優先株式
普通株式よりも優先的に剰余金の配当を受けられる内容の株式です。
拒否権付種類株式
一定の事項について、通常の株主総会などの決議に加え、その種類株主による種類株主総会の決議を必要とする株式です。
このように、株式の内容を工夫することで、財産としての利益と経営に関する権限を調整できます。
ただし、種類株式を発行するには、定款に必要な事項を定め、所定の会社法上の手続を行う必要があります。
3.議決権がなくても、配当を受け取れる?
はい。可能です。
例えば、会社が次の2種類の株式を発行する場合を考えます。
| 株式の種類 | 議決権 | 配当 |
|---|---|---|
| A種類株式 | あり | 受け取れる |
| B種類株式 | 原則なし | 受け取れる |
A種類株式を会社の経営を担う人が持ち、B種類株式を経営に関与しない家族が持つ仕組みです。
この場合、B種類株式の株主は、通常の株主総会で議決権を行使できないようにしながら、会社が配当を実施したときには、その株式の内容に従って配当を受け取ることができます。
さらに、B種類株式を配当優先株式として設計する方法も考えられます。
ただし、配当を受ける権利があることと、毎年必ず配当金が支払われることは別です。
会社の財務状況や分配可能額、配当に関する決議などによっては、配当が行われないこともあります。
「議決権を持たせず、毎年必ず一定額を受け取らせたい」という希望がある場合には、株式だけで実現できるのか、慎重な検討が必要です。
4.株式を平等に相続させながら、経営権を集中できる?
例えば、父親が株式をすべて所有する会社で、長女が後継社長になり、次女は経営に関与しない場合を考えます。
父親は、財産としての株式を2人に引き継がせたい一方、経営上の意思決定は長女に任せたいと考えています。
そこで、次のような設計が考えられます。
長女
議決権のあるA種類株式を取得し、会社の経営に関与する。
次女
議決権のないB種類株式を取得し、会社の利益に応じた配当を受け取る。
このようにすれば、会社の経営権を長女に集中させながら、次女にも株式という財産を承継させることができます。
もっとも、議決権のある株式とない株式では、財産的な価値が同じとは限りません。
株数を半分ずつにすれば、相続財産としての価値まで平等になるとは限らないのです。
また、議決権のない株式でも、会社法上、一定の場合には種類株主総会での議決権などが認められます。
議決権制限株式を持つ人が、会社に関するすべての権利を失うわけではありません。
5.議決権のない株式は、何株まで発行できる?
ここで重要なのが、会社法第115条です。
公開会社では、議決権制限株式の数が発行済株式総数の2分の1を超えた場合、会社は直ちに、その割合を2分の1以下にするための必要な措置をとらなければなりません。
一方、この規制は、会社法上の公開会社について定められたものです。
すべての株式について譲渡制限がある非公開会社には、同条の2分の1規制は適用されません。
そのため、非公開会社では、議決権制限株式を発行済株式の過半数とする設計も検討できます。
例えば、発行済株式100株のうち、議決権のある株式を10株、議決権のない株式を90株とする構成です。
ただし、これは法律上の規制の一つについての説明であり、どの会社でも自由に変更できるという意味ではありません。
既存株主の権利、定款変更の手続、種類株主総会の要否などを確認する必要があります。
6.「黄金株」を使うと、どうなる?
種類株式の一つに、一般に「黄金株」と呼ばれるものがあります。
これは、特定の重要事項について、通常の株主総会などの決議に加え、特定の種類株主総会の決議を必要とする拒否権付種類株式のことです。
例えば、次のような事項について、拒否権を設けることが考えられます。
- 会社の合併
- 重要な事業の譲渡
- 定款の重要な変更
- 一定の役員の選任・解任
実際にどの事項を対象にできるか、どのような決議を必要とするかは、会社法と定款に従って設計します。
例えば、父親が経営の第一線を退き、長女が社長に就任した後も、会社の売却などについては父親が一定の拒否権を持つ仕組みが考えられます。
ただし、黄金株を持っていれば、会社のあらゆる行為を自由に止められるわけではありません。
定款で定めた対象事項について、法律上の仕組みに従って権利を行使することになります。
また、拒否権が強すぎると、後継者が経営判断を行えなくなる可能性もあります。
黄金株は、経営を守る仕組みにも、経営を止めてしまう仕組みにもなり得ます。
7.父親が亡くなった後、黄金株はどうなる?
黄金株を利用する場合、特に考えておきたいのが、保有者の死亡です。
例えば、父親が黄金株を1株持ち、長女が普通株式を持っている場合です。
父親が亡くなったとき、その黄金株が誰に承継されるのかによって、会社の経営に大きな影響が生じる可能性があります。
黄金株も株式である以上、原則として相続の対象となります。
そのため、父親が亡くなった後に、想定していなかった相続人が拒否権を持つことになれば、後継者の経営に支障が生じるかもしれません。
このような問題を避けるためには、例えば、一定の事由が生じた場合に会社が株式を取得する仕組みなどを、あらかじめ検討することが考えられます。
ただし、取得条項の設定や変更には、会社法上の要件・手続があります。
黄金株を作るときは、保有者が元気な間だけでなく、その人が亡くなった後のことまで考えておく必要があります。
8.今ある普通株式を、議決権のない株式に変更できる?
ここは慎重な検討が必要です。
例えば、現在、父親が普通株式100株を所有している会社で、将来、長女に議決権のある株式10株、次女に議決権のない株式90株を承継させたい場合です。
このような希望があっても、現在の普通株式100株について、単に株券や株主名簿の記載を変えれば済むわけではありません。
まず、会社の定款に種類株式の内容を定める必要があります。
また、既存株式の権利内容を変更する方法によっては、株主全員の同意や種類株主総会の決議などが問題になります。
さらに、発行済株式の内容や株式の種類を変更した場合には、商業登記が必要となることがあります。
そのため、実務上は、
- 現在の定款と登記事項証明書を確認する
- 株主構成と発行済株式数を確認する
- 将来の経営者と財産承継者を整理する
- 必要な種類株式の内容を設計する
- 定款変更・株主総会等の手続を検討する
- 必要な変更登記を行う
- 遺言や生前贈与などによる株式承継を検討する
という順番で整理することが考えられます。
会社によって最適な手法は異なります。
9.議決権をなくせば、相続税も安くなる?
「議決権のない株式なら、価値が低くなるので相続税も安くなるのでは?」
と考える方もいるかもしれません。
しかし、議決権がないからといって、相続税評価額が当然に低くなるわけではありません。
非上場株式の評価は、会社の規模、資産、利益、株主の立場、株式の内容など、さまざまな要素を踏まえて行われます。
種類株式についても、その内容や適用される評価上の取扱いを確認する必要があります。
また、株式を生前贈与する場合には、贈与税の問題も生じます。
そのため、種類株式を利用する事業承継では、司法書士による会社法・登記手続の検討だけでなく、税理士による株価評価や相続税・贈与税の検討も重要です。
経営権の設計と税務上の評価は、分けて考える必要があります。
10.種類株式を作る前に、確認したいこと
種類株式は便利な制度ですが、複雑な仕組みを作ればよいというものではありません。
例えば、次のような点を確認しておきたいところです。
① 誰に経営を任せたいのか
後継社長を明確にすることが出発点です。
② 誰に財産としての株式を承継させたいのか
経営を担わない家族にも株式を渡すのか、配当を受けられるようにするのかを整理します。
③ 株式の評価額はどうなるのか
議決権の有無だけで判断せず、税務上の評価を確認します。
④ 株式を持つ人が亡くなったらどうなるのか
特に拒否権付種類株式では、次の保有者が誰になるのかが重要です。
⑤ 将来、株式を売却したり、会社を譲渡したりできるのか
種類株式の内容によっては、将来のM&Aや事業承継の障害となる場合があります。
⑥ 家族間で理解が得られているか
議決権のある株式とない株式を分ける場合には、その理由や将来の配当方針について、関係者の理解を得ることも大切です。
種類株式は、家族間の争いを防ぐための制度として活用できる一方、設計によっては新たな対立の原因にもなり得ます。
まとめ
会社の株式は、必ずしもすべて同じ権利内容にする必要はありません。
会社法の種類株式制度を利用すれば、例えば、
経営を担う子ども
→ 議決権のある株式を持つ。
経営に関与しない子ども
→ 議決権を制限し、配当を受けられる株式を持つ。
経営を引退する親
→ 一定の重要事項について拒否権を持つ株式を保有する。
といった仕組みを検討できます。
ただし、種類株式を導入するには、定款変更や必要な会社法上の手続、商業登記、税務上の検討などが必要です。
また、議決権を制限しても、すべての株主権がなくなるわけではありません。
大志法務事務所では、株式会社の定款変更、種類株式の内容に関する検討、商業登記などのご相談に対応しています。
「会社の株式を子どもたちに引き継がせたい」
「経営する子どもと、経営しない子どもで株式の権利を分けたい」
「黄金株を使った事業承継を考えている」
という場合には、現在の株主構成と定款を確認するところからご相談ください。
大切なのは、株式を誰に何株渡すかだけでなく、会社を将来誰が、どのように経営していくのかを考えることです。
参考情報
※制度内容は2026年10月13日時点の公表情報に基づいています。具体的な種類株式の導入方法や必要な決議、登記、税務上の取扱いは、会社の状況によって異なります。
