社長が交代したら、登記だけで終わり?銀行や税務署への届出も必要?
代表取締役の変更登記と、会社の実印・銀行口座・許認可などの手続を解説します

「父が高齢になったので、息子の私が会社の社長を引き継ぐことになりました」

「代表取締役の変更登記をすれば、銀行や税務署の手続も自動的に終わるのでしょうか?」

「会社の名前も所在地も変わらないのだから、特に問題はないですよね?」

中小企業では、親から子への事業承継や、長年経営を担ってきた社長の退任などによって、代表取締役が交代することがあります。

このとき、最初に思い浮かぶのは法務局での変更登記でしょう。

しかし、代表取締役の変更登記が完了しても、銀行や税務署、許認可を担当する行政機関などの登録情報まで自動的に変更されるわけではありません。

会社の実印や印鑑カードの取扱いも確認する必要があります。

今回は、株式会社の代表取締役が通常の退任・就任によって交代する場合を中心に、必要な手続と注意点を解説します。

1.「社長交代」と「代表取締役の変更」は同じ?

一般的に、会社の経営トップを「社長」と呼びます。

しかし、会社法上の役職である「代表取締役」と、会社内部の呼称である「社長」は、必ずしも同じではありません。

例えば、会社によっては、

  • 代表取締役社長
  • 代表取締役会長
  • 取締役社長
  • 社長執行役員

など、さまざまな肩書が使われています。

社内で社長という肩書が変わっただけで、登記されている代表取締役に変更がなければ、通常、その肩書の変更だけを理由とする代表取締役の変更登記は必要ありません。

一方、実際に会社を代表する人がAさんからBさんへ変わるのであれば、原則として代表取締役の変更登記が必要です。

まず確認するべきなのは、社内の肩書ではなく、登記上の代表取締役が誰なのかという点です。

2.新しい社長は、どうやって決める?

代表取締役の選び方は、会社の仕組みによって異なります。

特に重要なのが、取締役会を設置している会社かどうかです。

取締役会を設置している株式会社

原則として、取締役会の決議によって代表取締役を選定します。

例えば、取締役A・B・Cの3人がいる会社で、Aが代表取締役を退任し、Bが後任になる場合です。

取締役会でBを代表取締役に選定し、Bが就任を承諾するという流れが考えられます。

取締役会を設置していない株式会社

取締役会を設置していない会社では、定款の内容などによって代表取締役の選び方が異なります。

例えば、

  • 定款で代表取締役を定める
  • 株主総会の決議で選定する
  • 定款の定めに基づいて取締役の互選で選定する

といった方法があります。

また、代表取締役を特に定めず、各取締役が会社を代表する仕組みになっている会社もあります。

そのため、「社長交代だから取締役会議事録を作ればよい」と一律には判断できません。

現在の定款と登記事項証明書を確認する必要があります。

3.後任者が取締役でない場合はどうする?

例えば、父Aが代表取締役で、長男Bが従業員として働いている会社を考えます。

父Aが退任し、長男Bを代表取締役にしたい場合です。

このとき、長男Bがまだ取締役でなければ、通常は、まず株主総会で長男Bを取締役に選任する必要があります。

そのうえで、会社の機関設計や定款に従って、代表取締役を選定します。

つまり、

長男Bを取締役に選任
↓
長男Bを代表取締役に選定
↓
就任承諾などを確認
↓
役員変更登記を申請

という流れです。

一方、長男Bが既に取締役である場合には、新たな取締役選任が不要となることもあります。

ただし、現在の取締役の任期が満了していないかなども確認する必要があります。

4.前社長は、取締役も辞める必要がある?

代表取締役を退任することと、取締役を退任することは、別の問題です。

例えば、父Aが代表取締役を退任して長男Bに経営を引き継ぐものの、父Aは引き続き取締役として経営に関与する場合です。

この場合、父Aは代表取締役を退任しても、取締役として残ることがあります。

反対に、父Aが経営から完全に退くのであれば、代表取締役だけでなく取締役の退任も必要になります。

また、代表取締役の地位を辞任した場合でも、会社の機関設計によっては、代表権が当然には消滅しないケースや、後任者の就任まで権利義務が残るケースがあります。

特に、取締役会を設置していない会社では、代表権の帰属を慎重に確認する必要があります。

「代表取締役を辞める」「取締役も辞める」「取締役として残る」のどれなのかを、事前に明確にしておきましょう。

5.代表取締役の変更登記は2週間以内

株式会社の登記事項に変更が生じた場合、原則として、変更が生じた日から2週間以内に、本店所在地を管轄する法務局へ変更登記を申請する必要があります。

例えば、10月1日に新しい代表取締役が就任したのであれば、その就任日を基準に登記期限を確認します。

ここで注意したいのは、登記を申請した日が、代表取締役の就任日になるわけではないという点です。

適法な選定と就任承諾などによって就任の効力が生じ、その後に登記を申請するのが基本です。

また、

「忙しかったので、半年後にまとめて登記する」

「社長交代は社内で決まっているので、登記は急がない」

という対応は避けるべきです。

期限内に登記を申請しなかった場合、会社法の規定により、代表取締役が100万円以下の過料に処される可能性があります。

登記期限は、社長交代の予定を立てる段階から意識しておきましょう。

6.代表取締役の変更登記には、どのような書類が必要?

一般的には、次のような書類が関係します。

  • 株主総会議事録
  • 取締役会議事録または取締役の互選書
  • 辞任届
  • 就任承諾書
  • 印鑑証明書
  • 株主リスト
  • 定款
  • 委任状

ただし、これらをすべての会社で提出するわけではありません。

例えば、取締役会設置会社で、既存の取締役から新しい代表取締役を選定する場合と、取締役会非設置会社で、新たに取締役を選任して代表取締役にする場合とでは、必要な書類が異なります。

また、議事録や辞任届などに押印する印鑑、印鑑証明書の添付の要否にも注意が必要です。

代表取締役の変更登記では、決議の内容だけでなく、誰がどの書類にどの印鑑を押すのかも重要になります。

7.変更登記の登録免許税はいくら?

株式会社の役員変更登記には、原則として次の登録免許税がかかります。

会社の資本金額 登録免許税
1億円以下 1万円
1億円を超える 3万円

例えば、資本金1,000万円の株式会社で代表取締役を変更する場合、役員変更登記の登録免許税は原則として1万円です。

同じ申請で、前社長の退任と新社長の就任を登記する場合でも、役員の人数ごとに1万円ずつ加算されるわけではありません。

ただし、役員変更以外の登記を同時に申請する場合には、別の登録免許税が必要となることがあります。

また、司法書士へ依頼する場合には、登録免許税とは別に報酬や実費がかかります。

8.会社の実印は、そのまま使える?

代表取締役が交代した場合、会社の実印についても確認が必要です。

ここで区別したいのは、会社の印鑑そのものと、法務局に印鑑を届け出ている代表者です。

例えば、父Aが代表取締役として会社の実印を法務局に届け出ていた場合、その印鑑が会社の金庫に残っていても、長男Bが当然に同じ届出を引き継げるわけではありません。

新しい代表取締役が会社の印鑑証明書を取得する必要がある場合には、印鑑届出などの手続を確認します。

同じ印影の印鑑を引き続き使用することができる場合でも、届出を行う代表者が変わる点には注意が必要です。

また、印鑑カードについても、新しい代表者に対応する手続を確認します。

なお、現在はオンライン登記申請における印鑑提出が任意となる場合がありますが、会社の印鑑証明書を利用するのであれば、印鑑届出が必要になります。

会社の実印が手元にあることと、新しい代表取締役が法務局で印鑑証明書を取得できることは別です。

9.銀行口座の名義は、自動的に変わる?

社長交代で特に忘れやすいのが、金融機関への届出です。

代表取締役の変更登記を完了しても、銀行に登録されている代表者情報が自動的に更新されるとは限りません。

例えば、会社名義の普通預金口座について、銀行側の登録情報が前社長Aのままになっている場合です。

この状態で新社長Bが、

「会社の代表者が変わったので、融資の手続をしたい」

「インターネットバンキングの管理者を変更したい」

と申し出ても、先に代表者変更の手続を求められることがあります。

一般的には、金融機関ごとに、

  • 代表者変更届
  • 変更後の登記事項証明書
  • 会社の印鑑証明書
  • 新代表者の本人確認書類
  • 銀行への届出印

などを確認します。

ただし、必要書類や手続方法は金融機関によって異なります。

会社名義の口座が複数の銀行にある場合には、それぞれ確認が必要です。

また、融資を受けている会社では、代表者変更に関する契約上の届出義務や、前社長の個人保証の取扱いも確認しておきたいところです。

代表取締役が交代したからといって、前社長の個人保証が自動的に外れるわけではありません。

10.税務署にも代表者変更の届出が必要?

会社の代表取締役が交代した場合、税務関係の届出も確認する必要があります。

国税庁では、法人の代表者の変更などについて、異動届出書を提出する手続を案内しています。

例えば、

代表者:父A
↓
代表者:長男B

と変更した場合には、税務署に対する異動届出書の提出が問題になります。

また、都道府県や市区町村に対する法人関係の異動届についても確認が必要です。

愛知県内の会社であれば、県税事務所や市町村への届出の要否・方法を確認します。

国税庁のe-Taxでは、一定の国税・地方税の異動届をまとめて作成・提出できる仕組みも用意されています。

ただし、登記が完了しただけで、すべての税務関係の手続が自動的に済むわけではありません。

顧問税理士がいる場合には、代表者変更の予定と登記完了日を早めに共有しておくとよいでしょう。

11.e-Taxの利用者識別番号は取り直す?

社長が交代すると、

「e-Taxの利用者識別番号も、新しい社長の名前で取り直すのでしょうか?」

という疑問が生じることがあります。

国税庁の案内では、代表者などが変更になった場合でも、原則として新しい利用者識別番号を取得し直す必要はありません。

ただし、e-Taxに登録されている代表者情報は適切に更新する必要があります。

また、電子証明書の内容が変わる場合には、新しい電子証明書を取得して登録し直す必要が生じることがあります。

つまり、

利用者識別番号は原則として引き続き使用
↓
代表者情報を更新
↓
必要に応じて電子証明書を再登録

という整理になります。

電子申告を税理士に依頼している場合と、会社自身で電子署名を行っている場合とでは、確認すべき内容が異なります。

12.許認可の代表者変更も忘れずに

会社が許認可を受けて事業を行っている場合には、特に注意が必要です。

例えば、

  • 建設業
  • 宅地建物取引業
  • 産業廃棄物処理業
  • 古物営業
  • 介護サービス事業

などです。

許認可の種類によっては、代表者が変更された場合に、所管する行政機関への変更届出が必要になります。

また、代表者の変更だけでなく、役員の変更についても届出が必要となる制度があります。

届出期限も制度ごとに異なります。

そのため、

「法務局で変更登記をしたから、許認可の手続も終わった」

とは考えないようにしましょう。

許認可を受けている会社では、社長交代を決める前に、現在保有している許認可を一覧にしておくことをおすすめします。

13.取引先や契約書も、すべて作り直す必要がある?

代表取締役が交代したからといって、会社が締結していた契約が当然に無効になるわけではありません。

例えば、前社長Aが代表取締役だったときに、会社が取引先と締結した継続的な売買契約です。

社長がBに交代しても、契約当事者である株式会社自体は変わりません。

そのため、代表者が変わったことだけを理由に、すべての契約書を作り直さなければならないわけではありません。

ただし、契約書に代表者変更時の通知義務が定められている場合や、取引先から最新の登記事項証明書の提出を求められる場合があります。

また、融資契約や重要な業務委託契約などでは、代表者変更が契約上の確認事項になっていることもあります。

契約の有効性と、契約に基づく届出・通知の義務は分けて考えることが大切です。

14.会社の不動産登記にも影響する?

会社が土地や建物を所有している場合、

「代表取締役が変わったので、会社名義の不動産も名義変更しなければならないのでしょうか?」

という質問があります。

結論として、代表取締役が交代しただけで、会社所有の不動産について所有権移転登記をする必要はありません。

不動産の所有者は、前社長A個人ではなく、株式会社だからです。

例えば、

土地の所有者:株式会社○○商事

となっている場合、代表取締役がAからBへ交代しても、土地の所有者である会社は同じです。

ただし、社長交代後に会社所有の不動産を売却する場合や、抵当権を設定する場合には、現在の代表者による登記申請や本人確認などが必要になります。

また、会社の商号や本店所在地が変更された場合には、代表者変更とは別に、不動産登記上の名義人表示に関する手続を検討する必要があります。

15.社長交代をスムーズに進めるためのチェックリスト

社長交代が決まったら、次の順番で確認すると整理しやすくなります。

① 現在の登記事項証明書を確認する

誰が取締役・代表取締役として登記されているかを確認します。

② 定款を確認する

取締役会の有無や、代表取締役の選定方法を確認します。

③ 前社長の退任内容を決める

代表取締役だけを退任するのか、取締役も退任するのかを整理します。

④ 新社長の就任手続を行う

必要な株主総会や取締役会などの決議、就任承諾を確認します。

⑤ 2週間以内に変更登記を申請する

必要書類を整え、管轄法務局へ申請します。

⑥ 会社の実印・印鑑カードを確認する

新しい代表者による印鑑届出などを検討します。

⑦ 銀行の代表者変更手続を行う

預金口座、融資、個人保証、インターネットバンキングなどを確認します。

⑧ 税務署・自治体への届出を確認する

顧問税理士とも情報を共有します。

⑨ 許認可の変更届を確認する

事業に必要な許認可の種類と届出期限を確認します。

⑩ 取引先や社内の登録情報を更新する

重要な契約先、電子契約サービス、各種アカウント、会社案内などを確認します。

特に、銀行取引や許認可に関する手続は、登記が終わってから初めて確認するのではなく、社長交代前から準備しておくと安心です。

まとめ

株式会社の代表取締役が交代した場合には、原則として2週間以内に役員変更登記を申請する必要があります。

しかし、社長交代に伴う手続は、法務局だけで完結するとは限りません。

特に確認したいのは、

代表取締役の変更登記 → 新旧代表者の退任・就任を登記します。

会社の実印・印鑑カード → 新代表者による届出や利用方法を確認します。

金融機関 → 預金口座、融資、保証などの手続を確認します。

税務署・自治体 → 法人の異動届などを確認します。

許認可 → 代表者や役員の変更届が必要か確認します。

という点です。

また、会社によって代表取締役の選定方法が異なるため、定款や取締役会の有無を確認せずに手続を進めることは避けましょう。

社長交代は、単に登記簿上の名前を変えるだけではなく、会社の対外的な代表者を切り替える手続です。

大志法務事務所では、株式会社の役員変更登記、代表取締役の変更登記、定款の確認、必要な議事録や登記書類の作成などに対応しています。

「父から息子へ社長を交代したい」

「取締役会のない会社で、代表取締役の選び方が分からない」

「代表者変更登記と、銀行などの手続をまとめて整理したい」

という場合には、まず現在の登記事項証明書と定款を確認するところからご相談ください。

参考情報

※制度内容は2026年10月12日時点の公表情報に基づいています。必要な決議・書類・届出は、会社の機関設計、定款、事業内容、取引先との契約などによって異なります。