会社の株主が亡くなったら、その株式はどうなる?
株式も相続財産です。「株主変更登記」ではなく、株主名簿と相続手続を確認しましょう
中小企業や家族経営の会社では、
「父が会社を作り、株式もほとんど父が持っている」
ということが珍しくありません。
では、その父が亡くなったら、会社の株式はどうなるのでしょうか。
「長男が会社を継ぐから、株式も自動的に長男のものになる?」
「法務局で株主の変更登記をする?」
「相続人全員が株主になる?」
実は、会社の株式も預貯金や不動産などと同じように相続財産です。
しかも、会社経営に直結する財産なので、相続手続を後回しにすると、株主総会の議決権を誰が行使するのか分からなくなり、会社運営に影響することがあります。
今回は、特に中小・同族会社で重要になる「株主が亡くなったときの株式」を整理します。
1.会社の株式も相続財産です
株式会社の株主が亡くなっても、その人が持っていた株式が消滅するわけではありません。
株式は財産ですから、原則として相続の対象になります。
例えば父Aが、
株式会社Xの株式100株
を所有していて亡くなり、相続人が、
- 妻B
- 長男C
- 長女D
だったとします。
「長男Cが会社で働いているから、100株は当然Cが相続する」
ということにはなりません。
遺言や遺産分割などによって誰が株式を取得するのかを決める必要があります。
会社の後継者と、法律上株式を相続する人は、必ずしも同じではありません。
2.相続人が複数いると、株式はどうなる?
株主が死亡し、相続人が複数いる場合、遺産分割が終わるまで、その株式は相続人間で共有される状態になります。
先ほどの、
父A 100株
相続人 妻B・長男C・長女D
という例で考えてみます。
遺産分割がまだ終わっていないからといって、
妻Bが50株
長男Cが25株
長女Dが25株
というように、法定相続分に応じて当然に株式そのものが分割され、それぞれが別々の株主になると考えるのは適切ではありません。
法務省も、相続人が複数いる場合には、相続開始後、遺産分割までの間、株式は相続人間で共有されると説明しています。
その後、
「会社の株式100株は長男Cが取得する」
などと遺産分割を行うことで、最終的な取得者を決めることになります。
3.共有状態の株式の議決権は、誰が使うの?
ここが会社経営では非常に重要です。
株式が相続人間で共有されているからといって、相続人全員がそれぞれ自由に議決権を行使できるわけではありません。
会社法では、株式を共有している場合、原則として、共有者はその株式について権利を行使する人を一人定め、その人の氏名または名称を会社へ通知する必要があります。
例えば父が会社の議決権の大部分を持っていた場合、その株式の権利行使者が決まらなければ、
「株主総会で誰が議決権を行使するのか」
という問題が生じます。
特に、
- 代表取締役を選び直す必要がある
- 役員変更をしたい
- 定款を変更したい
- 重要な会社方針を決めたい
という時期に大株主が死亡すると、会社運営そのものに影響することがあります。
「相続の話だから会社経営とは別」と考えず、早めに整理する必要があります。
4.「社長が亡くなった」と「株主が亡くなった」は別の問題です
中小企業では、
代表取締役=大株主
となっていることが多いため、二つの問題が混同されやすくなります。
しかし法律上は別です。
例えば父が、
代表取締役
かつ
100%株主
だった場合、父の死亡によって、
役員としての問題
→ 代表取締役・取締役の死亡に伴う役員変更手続
株主としての問題
→ その人が所有していた株式の相続手続
という二つの問題が同時に発生します。
代表取締役や取締役は商業登記簿に登記されていますから、死亡に伴って役員変更登記が必要になる場合があります。
一方、通常、株主一人一人の氏名は商業登記簿の登記事項ではありません。
そのため、
「株主が父から長男へ変わったので、株主変更登記を法務局へ申請する」
という手続をするわけではありません。
この違いは非常に重要です。
5.株主が変わったら、何を変更するの?
株主について会社が管理する基本的な書類が株主名簿です。
株式会社は株主名簿を作成し、
- 株主の氏名または名称
- 住所
- 保有する株式数
など、法律で定められた事項を記載・記録します。
相続によって株式の取得者が確定した場合には、相続関係や遺産分割の内容などを確認したうえで、株主名簿の名義書換を行うことになります。
つまり、
不動産の相続
→ 法務局で相続登記
会社の株式の相続
→ 遺産分割等を行い、会社の株主名簿を整理
という違いがあります。
もっとも、株主総会決議に基づく商業登記を申請するときには、一定の場合に「株主リスト」を法務局へ提出するため、株主が誰なのかを正確に把握しておくことは商業登記の場面でも重要です。
6.遺産分割が終わる前に株主総会を開く場合は?
会社の経営は、相続手続が終わるまで待ってくれるとは限りません。
大株主が亡くなった直後に、
「役員の任期が満了する」
「新しい代表取締役を決めなければならない」
「重要な契約のため株主総会決議が必要」
ということもあります。
このような場合、亡くなった株主の株式について誰が権利を行使するのかを整理する必要があります。
法務省は、主要株主が死亡した場合の「株主リスト」の記載方法についても専用の資料を公表しています。
そこでは、会社が株主の死亡を知っているか、相続人を把握しているか、遺産分割が済んでいるか、株主名簿の名義書換が済んでいるかなどによって、株主リストへの記載方法が異なることが示されています。
大株主が死亡した会社では、株主総会を開く前に株式の相続状況を確認しておくことが大切です。
7.「譲渡制限株式」なら、相続にも会社の承認が必要?
中小企業の株式には、
「この会社の株式を譲渡によって取得するには会社の承認が必要」
という譲渡制限が付いていることが多くあります。
そこで、
「譲渡制限株式なら、相続する場合にも会社の承認が必要なの?」
と思われるかもしれません。
相続は通常の「譲渡」とは異なるため、相続による株式取得について、通常の株式譲渡承認手続をするという仕組みではありません。
つまり、単に定款に、
「株式を譲渡により取得するには会社の承認を要する」
と書いてあるだけで、会社が、
「その相続人には株主になってほしくないので、相続を認めません」
と拒否できるわけではありません。
ただし、会社法には別の制度があります。
8.定款に定めがあれば、相続人に株式の売渡しを請求できる場合があります
譲渡制限株式を発行している会社では、定款にあらかじめ定めておくことによって、相続その他の一般承継で株式を取得した人に対し、その株式を会社へ売り渡すよう請求できる制度があります。
会社法174条の制度です。
例えば、
「父と長男で経営してきた会社で、父が亡くなった」
「父の株式を、会社経営に関わっていない相続人が取得することになった」
という場合、定款に必要な規定があれば、この制度を検討できることがあります。
この制度の目的は、相続などによって、会社にとって必ずしも望ましくない人が譲渡制限株式を取得した場合に、会社側で対応できるようにすることにあります。
ただし、定款に規定があるだけで自動的に会社の株式になるわけではありません。
実際に売渡請求をするには、会社法に定められた株主総会の決議や通知などの手続が必要です。
また、会社が相続などによる取得を知った日からの期間制限もあります。
「相続が起きてから必要になったので、急いで定款に条文を追加すれば必ず使える」と単純に考えられる制度ではありません。
事業承継を考えるのであれば、相続発生前から定款を確認しておくことが重要です。
9.後継者を決めただけでは、株式の承継対策になりません
会社経営者から、
「会社は長男に継がせることに家族も納得しています」
と聞くことがあります。
しかし、
経営者として後継者を決めること
と
会社の株式を後継者へ集中させること
は別の問題です。
例えば社長が100%の株式を持ったまま亡くなり、相続人が配偶者と子3人だった場合、何の対策もしていなければ、その株式について相続人全員が関係することになります。
その後、家族の意見が変わったり、相続人の一人が亡くなったりすれば、さらに関係者が増える可能性もあります。
事業承継では、
- 誰を代表取締役にするのか
- 誰に株式を承継させるのか
- 遺言を作成するのか
- 生前に株式を移転するのか
- 遺留分への対応をどうするのか
- 定款に相続人等への売渡請求の規定があるか
などをまとめて検討する必要があります。
「社長の後継者を決めたから事業承継対策は終わり」ではありません。
10.まず会社の「株主が誰なのか」を確認しましょう
長く続いている同族会社では、意外に多いのが、
「現在の株主構成が正確に分からない」
というケースです。
創業時の株主がすでに亡くなっている。
昔の増資時の資料が見つからない。
株主名簿が長年更新されていない。
定款も古いままになっている。
こうした状態で主要株主が亡くなると、相続手続だけでなく、その後の株主総会や商業登記にも影響する可能性があります。
事業承継を考え始めたら、まず、
現在の定款
株主名簿
過去の株主総会議事録
会社設立時や増資時の資料
などを確認し、
「現在、誰が何株持っているのか」
を整理することが第一歩です。
まとめ
株式会社の株主が亡くなった場合、その人が所有していた株式も相続財産になります。
相続人が複数いる場合には、遺産分割が終わるまで株式が共有状態となることがあり、株主総会での権利行使についても注意が必要です。
そして重要なのは、
「株主が亡くなった」
と
「取締役・代表取締役が亡くなった」
は別の問題だということです。
株主個人の氏名は通常、商業登記簿の登記事項ではないため、相続によって株主が変わっただけで「株主変更登記」をするわけではありません。
一方、亡くなった人が取締役や代表取締役でもあった場合には、別途、役員変更登記を検討する必要があります。
また、譲渡制限株式を発行している会社では、定款にあらかじめ定めがあれば、相続などによって株式を取得した人に対する会社法174条の売渡請求制度を利用できる場合があります。
中小・同族会社の事業承継では、
「誰が社長になるか」だけではなく、「誰が株式を持つのか」まで考えておくこと
が非常に重要です。
大志法務事務所では、会社の役員変更登記や定款の確認などとあわせて、事業承継に伴う会社法上の手続を整理することができます。
「社長が会社の株式を全部持ったままになっている」
「株主名簿を長年確認していない」
「定款に相続人への株式売渡請求の規定があるか分からない」
という会社では、相続が発生する前に一度確認しておくと安心です。
参考情報
法務省「株主リストに関するよくあるご質問」
主要株主が死亡した場合の取扱いを確認する
法務省「主要な株主Aが死亡した場合の株主リストの記載」
相続・遺産共有時の株主リストを確認する
e-Gov法令検索「会社法」
会社法106条・174条以下を確認する
法務省「『株主リスト』が登記の添付書面となりました」
株主リスト制度を確認する
※制度内容は2026年10月6日時点の公表情報に基づいています。
