亡くなった親の借金は、子どもが返さなければならない?相続した借金の意外な落とし穴
相続債務・連帯保証・住宅ローンと、遺産分割協議で解決できない問題を解説します
「父が亡くなり、実家と預金を相続することになりました」
「ところが、父には銀行からの借入金が残っていたようです」
「兄が実家を相続するので、借金も兄が引き継ぐことにすれば、私は返済しなくてよいのでしょうか?」
相続というと、不動産や預金など、プラスの財産を受け継ぐイメージが強いかもしれません。
しかし、相続の対象となるのは、プラスの財産だけではありません。
亡くなった方が負っていた借金などの債務も、原則として相続の対象になります。
しかも、相続人同士で「借金は長男が全部引き継ぐ」と決めたとしても、それだけで銀行などの債権者に対して他の相続人が返済義務を免れるとは限りません。
今回は、相続した借金について、実務上注意したいポイントを解説します。
1.借金も相続するの?
民法第896条では、相続人は、被相続人の財産に属した一切の権利義務を原則として承継すると定めています。
そのため、亡くなった方に借金があった場合、その返済義務も相続の対象になります。
例えば、父親が亡くなり、次のような財産と借金が残っていた場合です。
| 財産・債務 | 金額 |
|---|---|
| 自宅の土地・建物 | 2,000万円 |
| 預貯金 | 300万円 |
| 銀行借入金 | ▲800万円 |
| 財産と債務の差額 | 1,500万円 |
この場合、プラスの財産が借金を上回っているからといって、借金が自動的に消えるわけではありません。
相続人は、承継した債務について返済の問題に対応する必要があります。
また、借金には銀行からの借入金だけでなく、個人からの借入金や未払金なども含まれることがあります。
2.相続人が複数いる場合、借金はどう分ける?
相続人が複数いる場合、金銭債務のような可分債務は、原則として相続開始と同時に法定相続分に応じて各相続人に承継されます。
例えば、父親が亡くなり、相続人が母親と子ども2人の場合です。
父親に1,000万円の借入金があったとします。
| 相続人 | 法定相続分 | 原則として承継する借金 |
|---|---|---|
| 母親 | 2分の1 | 500万円 |
| 長男 | 4分の1 | 250万円 |
| 長女 | 4分の1 | 250万円 |
この場合、銀行は原則として、それぞれの相続人に対して承継した債務の返済を求めることができます。
なお、債務の種類や契約内容によって取扱いが異なる場合があります。
3.遺産分割協議で「借金は長男が全部引き継ぐ」と決めればよい?
ここが、相続実務で特に注意したいポイントです。
例えば、相続人全員で話し合い、
「実家は長男が相続する。その代わり、父親の借金も長男がすべて返済する」
と決めた場合です。
家族の間では、合理的な取り決めに思えるかもしれません。
しかし、相続人同士の合意だけでは、銀行などの債権者を拘束できません。
相続人の間で長男が全額を負担すると決めても、銀行がその合意を承諾していなければ、他の相続人に対して法定相続分に応じた返済を求めることが可能です。
例えば、長男が返済を続ける約束をしたものの、途中で返済できなくなった場合です。
銀行は、他の相続人に対して、それぞれが承継した債務の返済を求めることがあります。
したがって、遺産分割協議書に借金の負担者を記載する場合には、相続人間の内部的な負担と、債権者に対する返済義務を区別する必要があります。
4.銀行の承諾があれば、借金を1人にまとめられる?
銀行などの債権者との合意によって、特定の相続人が債務を引き受ける方法があります。
例えば、長男が借金をすべて引き受け、他の相続人が返済義務を免れるようにする場合です。
このような仕組みとして、免責的債務引受などが考えられます。
ただし、銀行が必ず応じるとは限りません。
銀行としては、返済能力のある相続人が複数いる状態から、返済義務者を1人に減らすことになるため、慎重に判断することがあります。
また、担保が設定されている場合には、抵当権などの取扱いについても確認が必要です。
借金を特定の相続人にまとめたい場合には、相続人だけで決めるのではなく、早い段階で金融機関に相談することが重要です。
5.亡くなった親が連帯保証人だった場合は?
亡くなった方が、誰かの借金の連帯保証人になっていた場合も注意が必要です。
例えば、父親が経営する会社の借入金について、父親個人が連帯保証人になっていたケースです。
父親が亡くなった場合、原則として、その連帯保証債務も相続の対象になります。
相続人は、父親が保証していた債務について、法定相続分に応じた責任を承継することがあります。
しかも、連帯保証債務は、会社が問題なく返済している間は、相続人がその存在に気付かないこともあります。
後になって会社の経営が悪化し、金融機関から相続人に請求が届く可能性もあります。
ただし、保証の内容によっては、相続される責任の範囲が異なることがあります。
特に、継続的な取引についての根保証契約などは、契約内容や元本確定に関する規定を確認する必要があります。
6.住宅ローンが残っている場合は?
亡くなった親が住宅ローンを返済していた場合には、まず団体信用生命保険(団信)への加入状況を確認しましょう。
団信は、住宅ローンの債務者が死亡した場合などに、一定の条件のもとで保険金が支払われ、住宅ローンの残債が返済される仕組みです。
例えば、父親の住宅ローンが1,500万円残っていても、団信によって残債が完済される場合があります。
ただし、すべての住宅ローンに団信が付いているわけではありません。
また、保障内容や免責事由などによって、保険金が支払われない場合もあります。
そのため、住宅ローンが残っている場合には、金融機関に連絡し、団信の有無と必要な手続を確認することが重要です。
団信によって住宅ローンが完済された場合には、抵当権抹消登記が必要になります。
7.借金があるなら、必ず相続放棄した方がよい?
借金があるからといって、必ず相続放棄を選ぶべきとは限りません。
例えば、預貯金や不動産などのプラスの財産が、借金を大きく上回っている場合です。
借金を返済しても十分な財産が残るのであれば、相続することが合理的な場合もあります。
一方、借金が財産を大きく上回っている場合には、相続放棄を検討することがあります。
相続放棄は、家庭裁判所に申述する手続です。
原則として、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行う必要があります。
また、相続財産の処分などによって単純承認したとみなされる場合には、相続放棄ができなくなることがあります。
相続放棄の手続については、第15回のコラムでも解説しています。
8.「限定承認」という方法もある?
相続には、単純承認と相続放棄のほかに、限定承認という方法があります。
限定承認は、相続によって得た財産の限度で、被相続人の債務などを弁済することを留保して相続する制度です。
例えば、亡くなった方にどの程度の借金があるか分からない場合です。
限定承認を利用することで、原則として相続によって得た財産の範囲で債務の弁済を行うことができます。
ただし、限定承認には重要な注意点があります。
相続人が複数いる場合には、原則として相続人全員が共同して行う必要があります。
また、財産目録の作成や債権者への公告など、手続が複雑になることがあります。
税務上の問題が生じる場合もあるため、実際に利用する際には慎重な検討が必要です。
9.借金があるかどうか、どうやって調べる?
相続が発生した場合には、できるだけ早い段階で、亡くなった方の財産と債務を調査することが重要です。
例えば、次のような資料を確認します。
- 預貯金通帳や取引履歴
- 金融機関からの郵便物
- 借用書や金銭消費貸借契約書
- 住宅ローンの返済予定表
- クレジットカードの利用明細
- 税金や社会保険料などの未納通知
- 会社の借入金に関する保証契約書
また、必要に応じて、信用情報機関への開示請求を検討することもあります。
ただし、信用情報機関の情報だけですべての債務が判明するわけではありません。
個人間の借入金や連帯保証債務など、別途調査が必要なものもあります。
10.相続放棄の3か月以内に借金を調べきれない場合は?
亡くなった方の財産関係が複雑な場合、3か月以内にすべての債務を把握できないことがあります。
そのような場合には、家庭裁判所に対して、相続の承認又は放棄の期間の伸長を申し立てる方法があります。
ただし、期間の伸長は自動的に認められるものではありません。
原則として、熟慮期間内に申立てを行う必要があります。
また、期間の伸長が認められるかどうかは、家庭裁判所の判断によります。
「調査が終わっていないから、3か月を過ぎても大丈夫」
と考えるのは危険です。
借金の有無が分からない場合ほど、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
11.相続人が借金を返済したら、相続放棄できなくなる?
相続放棄を検討している場合には、亡くなった方の借金を返済する前に注意が必要です。
民法では、相続財産の全部または一部を処分した場合などに、単純承認したものとみなされることがあります。
ただし、借金の返済をしたという事実だけで、必ず相続放棄ができなくなると一律に判断できるわけではありません。
例えば、相続人自身の固有財産から返済した場合と、亡くなった方の預金から返済した場合では、法的な評価が異なる可能性があります。
また、返済の内容や目的、相続財産の管理状況などによっても判断が変わります。
相続放棄を検討している場合には、亡くなった方の預金を使って借金を返済する前に、専門家に確認することが大切です。
12.相続登記をすれば、借金の問題も解決する?
相続した不動産について相続登記を行っても、借金の問題が自動的に解決するわけではありません。
例えば、父親の自宅を長男名義に相続登記した場合です。
その登記によって、父親の銀行借入金がすべて長男に移るわけではありません。
また、不動産に抵当権が設定されている場合には、所有者が変わっても、原則として抵当権はそのまま残ります。
そのため、相続登記を行う際には、不動産の権利関係だけでなく、担保となっている借入金の状況も確認することが重要です。
まとめ
亡くなった方の借金は、原則として相続の対象になります。
相続人が複数いる場合、金銭債務のような可分債務は、原則として法定相続分に応じて承継されます。
特に注意したいのは、相続人同士で「借金は長男が全部引き継ぐ」と決めても、それだけで他の相続人が銀行などに対する返済義務を免れるわけではないという点です。
また、亡くなった方が連帯保証人になっていた場合には、思いがけない債務を相続する可能性があります。
一方、住宅ローンについては、団体信用生命保険によって残債が完済される場合もあります。
借金がある場合には、相続放棄や限定承認などの方法も含めて検討することが重要です。
そして、相続放棄には原則として3か月という期間制限があります。
相続が発生したら、不動産や預貯金だけでなく、借金や保証債務についても早めに調査しましょう。
大志法務事務所では、相続登記、相続放棄の申述書類の作成、相続財産の調査に関するご相談などに対応しています。
「亡くなった親に借金があった」
「遺産分割協議で借金の負担者を決めたい」
「親が会社の連帯保証人になっていたかもしれない」
という場合には、早めにご相談ください。
相続では、何を受け継ぐかだけでなく、どのような義務を引き継ぐ可能性があるかを確認することが大切です。
参考情報
※制度内容は2026年10月15日時点の法令等に基づいています。相続債務の承継、保証債務の範囲、相続放棄の可否などは、契約内容や個別の事情によって異なります。
