遺産分割協議書は、認印ではダメ?
相続登記では「実印」と「印鑑証明書」を確認します

「遺産分割協議書には、相続人全員が実印を押さないといけないのでしょうか?」

「家族同士で話がまとまっているなら、認印でもいいのでは?」

「印鑑証明書は3か月以内のものでないと使えませんか?」

相続の手続を進めるとき、こうした疑問を持たれる方は少なくありません。

遺産分割協議とは、亡くなった方の財産を、相続人の間で誰がどのように取得するか話し合って決めることです。

そして、その結果を書面にしたものが「遺産分割協議書」です。

不動産の相続登記に遺産分割協議書を使用する場合には、原則として相続人が実印を押し、その印鑑証明書を添付して手続を行います。

今回は、なぜ実印と印鑑証明書が必要なのか、印鑑証明書には有効期限があるのか、遺産分割協議書を作るときにどこを注意すればよいのかをご説明します。

遺産分割は「相続人全員」で行います

遺言書などによって分け方が決まっていない場合、相続財産を相続人同士の話し合いによって分けることがあります。

これが遺産分割協議です。

遺産分割協議で重要なのは、

相続人の一部だけで決めるのではなく、原則として相続人全員で合意する必要がある

ということです。

例えば、

父が亡くなり、

・母
・長男
・長女

の3人が相続人だったとします。

「自宅は長男が相続する」

という内容を母と長男だけで決めても、長女を除外したままでは、原則として有効な遺産分割協議にはなりません。

まず、誰が相続人なのかを戸籍などで正確に確認することが大切です。

相続登記では遺産分割協議書に実印を押します

遺産分割協議によって、

「この土地と建物は長男が相続する」

と決まった場合、その内容に基づいて不動産の相続登記を申請します。

法務局の「登記申請手続のご案内(相続登記/遺産分割協議編)」では、遺産分割協議書について、相続人が印鑑証明書と同じ印、つまり実印を押し、印鑑証明書を添付する方法が案内されています。

これは、

「この遺産分割協議書に押された印鑑が、本人の登録した印鑑である」

ということを確認できるようにするためです。

単に紙に署名と押印があるだけでなく、本人の意思によって作成された書面であることを確認する重要な資料になります。

「認印で協議書を作ったから絶対に無効」とは別の問題です

ここで注意したいのは、

民法上の遺産分割協議の成立

と、

その協議書を使って相続登記などの手続をすること

は分けて考える必要があるということです。

遺産分割協議そのものは、相続人全員の合意によって成立します。

必ずしも「実印を押さなければ、話し合いそのものが成立しない」という単純な問題ではありません。

しかし、不動産の相続登記をする段階では、その合意を証明する資料として遺産分割協議書を提出し、実印と印鑑証明書によって確認するのが通常です。

そのため、

「家族全員が納得しているから認印だけで作っておけば大丈夫」

と考えると、実際の相続登記をするときに作り直しが必要になる可能性があります。

最初から、後の手続に使える形で作成しておくことが大切です。

印鑑証明書は「3か月以内」でなくてもよい?

ここは非常によくある誤解です。

不動産登記では、手続によって「作成後3か月以内」の印鑑証明書が必要になる場合があります。

そのため、

「相続登記に使う印鑑証明書も、必ず3か月以内でなければならない」

と思われることがあります。

しかし、遺産分割協議書に添付する相続人の印鑑証明書について、法務局は作成後3か月以内という制限はないと案内しています。

したがって、

「4か月前に取得したから、それだけで使えない」

ということにはなりません。

ただし、住所や氏名、印鑑登録などの状況が変わっている場合には別の確認が必要になることがあります。

また、相続登記以外の銀行、証券会社などの相続手続では、それぞれの機関が独自に「発行後○か月以内」などの条件を設けていることがあります。

登記で使えるかどうかと、金融機関で使えるかどうかは別に確認する必要があります。

遺産分割協議書の日付はいつを書く?

遺産分割協議書には日付を記載します。

では、

・亡くなった日
・話し合いを始めた日
・全員が実印を押した日
・相続登記を申請する日

のどの日を書けばよいのでしょうか。

法務局の相続登記に関するQ&Aでは、遺産分割協議書の日付は、実際に協議を行った日と案内されています。

一方、遺産分割協議に基づく相続登記の「登記原因の日付」は、原則として亡くなった方の死亡日です。

つまり、

協議書の日付と、登記原因の日付は同じとは限りません。

ここを混同しないようにしましょう。

不動産は「自宅」だけではなく、登記どおりに特定します

遺産分割協議書を作るときに特に注意したいのが、不動産の書き方です。

例えば、

「一宮市○○町の自宅は長男が相続する」

とだけ書いた場合、家族の間ではどの不動産か分かるかもしれません。

しかし、実際には、

・敷地が2筆、3筆に分かれている
・私道の共有持分がある
・自宅とは別に車庫が登記されている
・建物が母屋と附属建物に分かれている

といったケースがあります。

相続登記に使用する遺産分割協議書では、登記事項証明書などを確認し、

土地であれば、

・所在
・地番
・地目
・地積

建物であれば、

・所在
・家屋番号
・種類
・構造
・床面積

などによって対象不動産を特定します。

政府広報にも、法務省の様式を基にした遺産分割協議書の例として、土地・建物を登記記録に沿って記載する例が掲載されています。

「全部の財産」を1枚の協議書に書く必要はありません

遺産分割協議書には、必ず亡くなった方の財産すべてを一度に書かなければならない、と思われることがあります。

しかし、相続の状況によっては、

「まず不動産について協議する」

「後から預貯金について協議する」

など、財産ごとに遺産分割協議を行うことも考えられます。

ただし、一部の財産だけを対象にするのであれば、

何について合意した協議書なのかが分かるようにしておくこと

が重要です。

また、

「この協議書に記載していない財産は誰が取得するのか」

という問題が後から起こることもあります。

預貯金、有価証券、不動産、車など、財産全体を確認したうえで分け方を考えることが大切です。

後から財産が見つかったらどうする?

遺産分割協議書を作った後で、

「亡くなった父名義の土地がもう1筆見つかった」

「昔使っていた金融機関に預金が残っていた」

ということがあります。

その場合、すでに作成した協議書に、

「本協議書に記載のない財産は長男が相続する」

などの包括的な取り決めがあるかどうかによっても対応が変わります。

そのような記載がなければ、新たに見つかった財産について、改めて相続人で協議する必要が生じることがあります。

以前のコラムでご紹介した「所有不動産記録証明制度」なども活用しながら、遺産分割協議を行う前に財産をできるだけ正確に把握しておくことが重要です。

相続人の住所が変わったら?

遺産分割協議書を作った後、相続登記をするまでに時間が経過し、相続人が引っ越していることもあります。

その場合、

「協議書に書いてある住所」

「印鑑証明書の住所」

「現在の住所」

が一致しなくなることがあります。

どのような追加資料が必要になるかは状況によって異なります。

住所のつながりを証明する住民票や戸籍の附票などの確認が必要になることもありますので、長期間そのままにせず、早めに相続登記まで進める方が手続は整理しやすくなります。

海外に住んでいる相続人はどうする?

相続人の中に海外居住者がいる場合、

「日本の印鑑証明書が取れないので、遺産分割できないのでは?」

と心配されることがあります。

在外日本人については、国や地域によって、日本領事館で印鑑登録の証明を取得できる場合があります。

また、印鑑証明書に代えて、日本領事館などによる署名証明を利用できる場合もあります。

法務局の相続登記Q&Aでも、海外居住の共同相続人について、領事館等が発給した署名証明などを利用する方法が案内されています。

海外に相続人がいる場合は、通常より書類準備に時間がかかることがありますので、早めの確認がおすすめです。

印鑑証明書は返してもらえる?

遺産分割協議書や印鑑証明書は、その後、

・銀行の相続手続
・証券会社の手続
・別の不動産の相続手続

などでも使いたい場合があります。

相続登記では、所定の方法で原本還付の手続を行うことによって、提出した遺産分割協議書や印鑑証明書の原本を返却してもらえる場合があります。

法務局のQ&Aでも、遺産分割協議書と印鑑証明書について、原本還付請求を行えば返却を受けられる旨が案内されています。

必要な書類を何通も取り直す負担を減らすためにも、他の相続手続で使用する予定があるかを考えながら準備するとよいでしょう。

遺産分割協議書は「押印するだけの紙」ではありません

遺産分割協議書は、

「相続人全員で話がまとまったので、名前を書いてハンコを押しておけばよい」

というだけの書類ではありません。

相続登記に使用するのであれば、

・相続人が正しく確定しているか
・相続人全員が協議に参加しているか
・取得する財産が正確に特定されているか
・不動産の表示が登記記録と一致しているか
・誰が何を取得するのか明確か
・実印が押されているか
・必要な印鑑証明書がそろっているか

などを確認する必要があります。

せっかく全員から実印をもらった後で、

「土地が1筆抜けていた」

「相続人がもう一人いることが分かった」

となれば、改めて協議書の作成や押印が必要になることがあります。

そのため、遺産分割協議書は、実印を集める前の確認が非常に重要です。

大志法務事務所では、戸籍による相続人の確認、不動産の調査、遺産分割協議書の作成、相続登記まで一連の手続についてご相談を承っています。

「家族で話はまとまっているが、協議書をどう作ればよいか分からない」

「昔作った遺産分割協議書で相続登記ができるか確認したい」

「印鑑証明書が古いが取り直す必要があるのか知りたい」

という場合は、相続人全員から改めて押印をもらうことになる前に、内容を確認しておくと安心です。

遺産分割協議は相続人全員の合意が基本です。そして、その合意を相続登記に使用する場合には、実印と印鑑証明書によって確認します。印鑑証明書は「必ず3か月以内」とは限りませんので、手続ごとのルールを正しく確認しましょう。

参考情報

法務局「相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(登記手続ハンドブック)」
法務局の相続登記手続ハンドブックを確認する

法務局「登記申請を御自身ですることを検討されている方からよくある質問」
法務局の相続登記Q&Aを確認する

政府広報オンライン「知っておきたい相続の基本」
政府広報オンラインの相続解説を確認する

※法令・制度の内容は、2026年9月25日時点の情報に基づいています。