遺言書が2通見つかった!新しい遺言書が優先される?古い遺言書は無効になる?
公正証書遺言と自筆証書遺言の優先関係・遺言の撤回・相続手続の注意点を解説します
「父が亡くなり、遺品を整理していたら、手書きの遺言書が見つかりました」
「ところが、父は以前、公証役場でも遺言書を作成していたようです」
「遺言書が2通ある場合、どちらに従えばよいのでしょうか?」
このような相談を受けることがあります。
遺言書は、一度作成したら変更できないものではありません。
亡くなった方が、生前に何度も遺言書を書き直していることもあります。
また、公正証書遺言を作成した後に、自筆証書遺言を書いている場合もあります。
では、複数の遺言書が見つかった場合、どの遺言書が有効になるのでしょうか。
今回は、複数の遺言書が存在する場合の優先関係と、相続手続で注意したいポイントについて解説します。
1.遺言書は何通でも作成できる?
遺言書は、一生に一度しか作成できないものではありません。
例えば、60歳のときに遺言書を作成し、70歳になってから新しい遺言書を作成することもできます。
家族関係や財産の状況は、年月とともに変化します。
最初の遺言書を作成した後に、不動産を売却したり、新しい財産を取得したりすることもあるでしょう。
また、相続人との関係が変わり、財産の分け方について考え直すこともあります。
民法第1022条では、遺言者は、いつでも遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を撤回することができると定めています。
したがって、遺言書を作成した後でも、本人の意思によって内容を変更することが可能です。
2.新しい遺言書があれば、古い遺言書はすべて無効になる?
ここは、特に注意したいポイントです。
新しい遺言書が見つかったからといって、古い遺言書の内容がすべて無効になるとは限りません。
民法第1023条第1項では、前の遺言と後の遺言が抵触するときは、その抵触する部分について、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなすと定めています。
例えば、次のような場合です。
【令和2年に作成した遺言書】
「自宅の土地と建物は、長男に相続させる」
【令和7年に作成した遺言書】
「自宅の土地と建物は、長女に相続させる」
この場合、同じ不動産について異なる内容が定められています。
そのため、いずれも有効な遺言書であれば、原則として後に作成された遺言書の内容が優先されます。
一方、古い遺言書に記載された別の財産について、新しい遺言書が何も定めていない場合には、古い遺言書のその部分が引き続き効力を持つことがあります。
つまり、遺言書が複数ある場合には、作成日だけでなく、それぞれの内容を比較する必要があります。
3.公正証書遺言と自筆証書遺言では、どちらが優先される?
「公正証書遺言の方が正式な書類だから、必ず優先されるのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし、公正証書遺言と自筆証書遺言の間に、法律上、一律の優先順位があるわけではありません。
例えば、次のような場合です。
| 作成日 | 遺言書の種類 | 内容 |
|---|---|---|
| 令和3年5月 | 公正証書遺言 | 自宅は長男に相続させる |
| 令和7年8月 | 自筆証書遺言 | 自宅は長女に相続させる |
後から作成された自筆証書遺言が法律上の要件を満たして有効であれば、抵触する部分について、後の自筆証書遺言が優先されることがあります。
反対に、自筆証書遺言を作成した後で公正証書遺言を作成した場合も、同じ考え方になります。
ただし、自筆証書遺言には、全文の自書や日付、氏名、押印など、法律で定められた方式があります。財産目録については自書によらない方法が認められる場合もあります。
そのため、後から見つかった自筆証書遺言が、必ず有効とは限りません。
公正証書か自筆証書かという形式だけで判断せず、遺言書の有効性と作成時期、内容を確認することが重要です。
4.古い遺言書に書かれていない財産はどうなる?
例えば、父親が令和2年に次のような遺言書を作成していたとします。
「自宅は長男に相続させる。預貯金は長女に相続させる」
その後、令和7年に新しい遺言書を作成しました。
「自宅は次男に相続させる」
この場合、新しい遺言書は自宅についてのみ定めています。
そのため、自宅については後の遺言が優先される一方、預貯金については古い遺言書の内容が引き続き有効となる可能性があります。
ただし、新しい遺言書に、
「以前作成した遺言はすべて撤回する」
と記載されていた場合には、取扱いが異なります。
遺言書の文言によっては、古い遺言書の内容がすべて撤回されることがあります。
複数の遺言書がある場合には、一部分だけを読んで判断しないことが大切です。
5.遺言書に日付がない場合は?
自筆証書遺言では、原則として、遺言者が日付を自書する必要があります。
日付は、複数の遺言書がある場合に、どちらが後に作成されたものかを判断するためにも重要です。
例えば、
「令和8年10月20日」
という記載であれば、作成日を特定できます。
一方、
「令和8年10月吉日」
という記載では、具体的な日付を特定できないため、遺言書の有効性に問題が生じます。
また、日付が記載されていても、実際の作成時期との関係などが争われることがあります。
遺言書を作成する際には、正確な年月日を記載することが大切です。
6.古い遺言書を破り捨てれば、撤回したことになる?
民法第1024条では、遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分について遺言を撤回したものとみなすと定めています。
例えば、遺言者本人が、以前の遺言を撤回する意思で遺言書を破り捨てた場合です。
このような場合には、遺言の撤回が問題になります。
ただし、誰が破棄したのか、どのような意思で破棄したのかによって判断が異なります。
また、公正証書遺言の場合には、公証役場に原本が保管されているため、手元の正本や謄本を破棄しただけで、当然に遺言を撤回したことになるわけではありません。
遺言を変更したい場合には、新たな遺言書で撤回する内容を明確にする方法が確実です。
7.遺言書を作成した後に、財産を売却した場合は?
例えば、父親が次のような遺言書を作成したとします。
「甲土地を長男に相続させる」
ところが、その後、父親が甲土地を第三者に売却していた場合です。
民法第1023条第2項では、遺言と遺言後の生前処分その他の法律行為が抵触するときは、その抵触する部分について遺言を撤回したものとみなすと定めています。
そのため、遺言書に記載された不動産が生前に売却されている場合には、その財産についての遺言の効力が問題になります。
ただし、売却代金や代わりに取得した財産が、当然に元の遺言の対象になるわけではありません。
財産の状況が変わった場合には、遺言書を見直しておくことが望ましいでしょう。
8.新しい遺言書が無効だったら、古い遺言書はどうなる?
例えば、令和2年に有効な公正証書遺言を作成した後、令和7年に自筆証書遺言を作成した場合です。
ところが、後の自筆証書遺言に必要な日付や押印がなく、法律上の方式を満たしていなかったとします。
この場合、後の遺言書が無効であれば、それによって古い遺言書が撤回されたとは扱われない可能性があります。
したがって、古い公正証書遺言が引き続き有効となることが考えられます。
なお、いったん有効に撤回された遺言については、撤回行為がさらに撤回されても、原則として元の遺言の効力は回復しません。
この点は民法第1025条に定められています。
複数の遺言書がある場合には、単純に「一番新しいものだけを見ればよい」とは限らないのです。
9.自筆証書遺言が見つかったら、すぐに開封してよい?
自宅などで保管されていた自筆証書遺言が見つかった場合には、家庭裁判所での検認が必要となることがあります。
特に、封印のある遺言書については、家庭裁判所において相続人などの立会いのもとで開封する必要があります。
勝手に開封した場合には、過料の対象となることがあります。
ただし、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用して保管されていた遺言書については、家庭裁判所の検認は不要です。
また、公正証書遺言についても検認は不要です。
なお、検認は遺言書の有効・無効を判断する手続ではありません。
複数の遺言書が見つかった場合には、検認の要否と遺言書の効力を分けて考える必要があります。
10.公正証書遺言があるかどうか、調べることはできる?
亡くなった方が公正証書遺言を作成していたかどうか分からない場合には、公証役場の遺言検索制度を利用できることがあります。
公正証書遺言については、一定の時期以降に作成されたものが検索システムで管理されています。
相続人などの利害関係人は、必要な書類を提出して、公正証書遺言の有無を照会できる場合があります。
ただし、この検索制度で、自宅に保管されている自筆証書遺言まで調べられるわけではありません。
また、法務局の自筆証書遺言書保管制度については、別途、遺言書保管事実証明書などの制度があります。
複数の遺言書が存在する可能性がある場合には、それぞれの制度を利用して確認することが考えられます。
11.遺言書が2通ある場合、相続登記はどうする?
例えば、父親名義の自宅について、次の2通の遺言書が見つかった場合です。
- 古い遺言書:自宅は長男に相続させる
- 新しい遺言書:自宅は長女に相続させる
この場合、どちらの遺言書が有効で、どの部分が撤回されたのかを確認する必要があります。
後の遺言書が有効で、古い遺言書と抵触するのであれば、原則として後の遺言書の内容に基づいて相続登記を行うことが考えられます。
ただし、遺言書の内容や形式に疑義がある場合には、登記手続を進める前に慎重な検討が必要です。
また、相続人の間で遺言書の有効性について争いがある場合には、裁判手続などによる解決が必要になることもあります。
遺言書が複数見つかった場合には、相続登記を急ぐ前に、すべての遺言書を確認することが重要です。
12.遺言書を作り直すときに注意したいことは?
遺言書を作り直す場合には、以前の遺言書との関係を明確にしておくことが大切です。
例えば、新しい遺言書に、
「遺言者は、これまでに作成した遺言の全部を撤回する」
という内容を記載する方法があります。
これにより、古い遺言書との関係を整理しやすくなります。
ただし、以前の遺言書の一部だけを変更したい場合には、全部を撤回してしまうと、意図しない結果になることがあります。
また、新しい遺言書を作成する際には、次の点も確認しましょう。
- 以前に作成した遺言書の内容
- 現在所有している不動産や預貯金
- 相続人や受遺者の状況
- 遺留分への配慮
- 遺言執行者の指定
- 遺言書の保管方法
遺言書は、作成して終わりではありません。
財産や家族関係が変わった場合には、必要に応じて見直すことが大切です。
まとめ
遺言書が2通以上見つかった場合、必ずしも古い遺言書がすべて無効になるわけではありません。
民法では、前の遺言と後の遺言が抵触する場合、その抵触する部分について、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。
また、公正証書遺言と自筆証書遺言の間に、一律の優先順位があるわけではありません。
後から作成された自筆証書遺言が有効であれば、以前の公正証書遺言の内容を変更することも可能です。
ただし、自筆証書遺言には法律上の方式があり、形式に不備がある場合には無効となることがあります。
そして、複数の遺言書がある場合には、次の点が重要です。
① すべての遺言書を確認すること
② それぞれの作成日と有効性を確認すること
③ 内容が抵触している部分を確認すること
④ 遺言の撤回に関する記載を確認すること
⑤ 相続登記などの手続を進める前に、遺言書の関係を整理すること
大志法務事務所では、遺言書に基づく相続登記、公正証書遺言の作成支援、遺言書の内容確認などに対応しています。
「亡くなった親の遺言書が2通見つかった」
「公正証書遺言を作った後に、手書きの遺言書が見つかった」
「どの遺言書に従って相続登記をすればよいか分からない」
という場合には、お気軽にご相談ください。
遺言書は、何通あるかではなく、どの内容が法律上有効なのかを正確に確認することが大切です。
参考情報
※制度内容は2026年10月20日時点の法令等に基づいています。複数の遺言書の優先関係や効力、撤回の有無、相続登記の可否などは、遺言書の形式・文言・作成時期や個別の事情によって異なります。
