株主総会を開かずに決議できる?書面決議の仕組みと注意点
株主全員の同意があれば会議は不要?会社法第319条の手続と必要書類を解説します

「うちの会社は、株主が私と妻の2人だけです」

「取締役の変更をしたいのですが、わざわざ株主総会を開く必要があるのでしょうか?」

「株主全員が賛成しているので、書類だけで決議できませんか?」

このような相談があります。

株式会社では、取締役の選任や定款変更など、重要な事項について株主総会の決議が必要になります。しかし、株主が数人しかいない中小企業では、全員が同じ場所に集まって会議を開催することが、必ずしも合理的とは限りません。

実は、会社法には、株主全員の同意によって、実際に株主総会を開催せずに決議を成立させる制度があります。これを一般に「株主総会の書面決議」または「株主総会決議の省略」といいます。

今回は、この制度の仕組み、利用できる条件、必要な書類、役員変更登記との関係について解説します。

1.株主総会は必ず開催しなければならない?

株式会社では、会社法や定款に従って株主総会を開催し、必要な事項を決議するのが原則です。

例えば、取締役や監査役の選任、取締役の解任、定款の変更、剰余金の配当、会社の解散などが挙げられます。

ただし、これらの事項について、必ず株主が一堂に集まって会議を開かなければならないわけではありません。会社法第319条では、一定の条件を満たす場合に、株主総会の決議があったものとみなす制度を認めています。

この制度を利用すれば、実際に会議を開催しなくても、適法に株主総会の決議を成立させることができます。

2.株主総会の書面決議とは?

会社法第319条第1項では、取締役または株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合に、一定の条件を満たすと、その提案を可決する旨の株主総会決議があったものとみなされます。

その条件とは、その事項について議決権を行使することができる株主全員が、書面または電磁的記録によって同意することです。

例えば、株主が父親と長男の2人である株式会社を考えてみましょう。父親が70株、長男が30株を所有しているとします。

この会社で長男を新しい取締役に選任したい場合、父親と長男の双方が、取締役選任の提案について書面などで同意すれば、実際に株主総会を開催しなくても、取締役選任の決議があったものとみなされます。

重要なのは、単に口頭で賛成するのではなく、法定の方法によって同意することです。

3.株主の過半数が賛成すれば書面決議できる?

いいえ。ここは特に注意が必要です。

通常の株主総会では、決議の種類によって、出席株主の議決権の過半数など、所定の賛成数を満たせば決議が成立します。しかし、会社法第319条の書面決議では、原則としてその事項について議決権を行使できる株主全員の同意が必要です。

例えば、父親が80株、長男が10株、長女が10株を持っている会社で、父親と長男が賛成し、長女が同意しなかった場合、賛成株式数は90株になります。

しかし、長女もその議案について議決権を持っているのであれば、会社法第319条による書面決議は成立しません。

90%の株式を持つ株主が賛成していても、議決権を行使できる株主全員の同意がなければ利用できないのです。議決権のない株式などがある場合には、その議案について誰が議決権を行使できるのかを確認する必要があります。

4.書面決議はどのような会社で利用できる?

会社法第319条の制度は、家族経営の株式会社や、株主が少人数の会社で特に利用しやすい制度です。

① 社長が株式を100%所有している会社

株主が1人だけであれば、その株主が所定の方法で同意することで書面決議を利用できます。

② 夫婦2人が株主になっている会社

夫婦双方が同意すれば、会議を開催せずに決議できる場合があります。

③ 親子で株式を保有している会社

親子全員が議案に賛成していれば、書面決議による手続を検討できます。

④ 株主が遠方に住んでいる会社

株主が東京や大阪など離れた場所に住んでいる場合でも、書面や電磁的記録による同意を利用できます。

ただし、株主が少人数であれば必ず利用できるというわけではありません。議案について議決権を行使できる株主全員の同意が必要です。

5.書面決議ではどのような手続をする?

一般的には、次のような流れで進めます。

① 決議する事項を明確にする

例えば、「取締役Aを選任する」という議案を定めます。

② 取締役または株主が提案する

株主総会の目的である事項について、提案を行います。

③ 議決権を行使できる株主全員から同意を得る

書面または電磁的記録によって、提案に対する同意を取得します。

④ 全員の同意がそろったことを確認する

必要な株主全員の同意がそろった時点で、決議があったものとみなされます。

⑤ 株主総会議事録を作成する

会社法施行規則に従い、決議を省略した旨などを記載した議事録を作成します。

⑥ 必要に応じて登記申請を行う

取締役の選任や定款変更など、登記事項に変更が生じる場合には、変更登記を申請します。

実際に会議を開かない場合でも、会社としての記録を適切に残すことが重要です。

6.株主の同意書には何を書けばよい?

書面決議では、提案内容と、それに対する株主の同意が明確である必要があります。

例えば、取締役の選任であれば、「当会社の取締役として、Aを選任することに同意します。」といった内容が考えられます。そのうえで、株主の氏名、同意日などを記載します。

実務上は、議案の内容を記載した提案書と、株主の同意書を用意する方法などがあります。

また、会社法では、書面だけでなく電磁的記録による同意も認められています。ただし、電子メールなどを利用する場合には、誰が、どの提案に、いつ同意したのかを明確にし、記録を適切に保存する必要があります。

登記申請に利用する場合には、登記の添付書類として必要な形式も確認しなければなりません。

7.書面決議でも株主総会議事録は必要?

はい。株主総会の決議を省略した場合でも、議事録を作成する必要があります。

会社法施行規則第72条では、決議を省略した場合の株主総会議事録に記載すべき事項が定められています。主な内容は次のとおりです。

  • 株主総会の決議があったものとみなされた事項
  • その事項を提案した人の氏名または名称
  • 決議があったものとみなされた日
  • 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

通常の株主総会議事録とは異なり、開催場所や出席者による審議の経過などを記載するものではありません。実際に会議を開いていないためです。

書面決議を利用する場合には、その制度に対応した議事録を作成することが重要です。

8.書面決議で取締役を選任した場合、登記はできる?

はい。適法に成立した書面決議によって取締役を選任した場合でも、役員変更登記を申請することができます。

例えば、取締役Aが任期満了で退任し、新たに取締役Bを選任する場合です。書面決議によってBを選任し、Bが就任を承諾すれば、必要な書類を添付して役員変更登記を申請できます。

一般的には、株主総会議事録、株主リスト、就任承諾書、本人確認証明書または印鑑証明書など、事案に応じた書類を確認します。

また、書面決議で取締役を選任した場合でも、登記事項に変更が生じたときは、原則として本店所在地において2週間以内に変更登記を申請する必要があります。

9.書面決議で定款を変更することもできる?

できます。例えば、会社の商号変更、事業目的の追加、株式の譲渡制限規定の変更、取締役会の廃止、役員の任期規定の変更などが挙げられます。

これらのうち、株主総会の決議によって行う事項については、会社法第319条の要件を満たせば、書面決議を利用することができます。

通常の株主総会では特別決議が必要な定款変更であっても、議決権を行使できる株主全員が書面などで同意すれば、決議があったものとみなされます。

ただし、定款変更の内容によっては、株主総会の決議以外にも別の同意や手続が必要になる場合があります。商号や事業目的などの登記事項を変更した場合には、変更登記が必要です。

10.株主が1人だけの会社でも書面決議の書類は必要?

株主が1人しかいない会社では、株主総会を開くこと自体が形式的に感じられるかもしれません。

例えば、社長自身が株式を100%所有している会社です。この場合でも、会社法第319条の書面決議を利用するのであれば、提案に対する株主の同意を法定の方法で記録する必要があります。

また、決議があったものとみなされた場合には、議事録を作成します。

「自分が唯一の株主だから、何も書類を作らなくてよい」というわけではありません。

特に、取締役の選任や定款変更など、法務局での登記が必要な場合には、適切な決議を証明する書類が必要になります。会社の規模が小さい場合でも、法律上の手続を整えておくことが大切です。

11.定時株主総会も書面決議で済ませられる?

定時株主総会についても、会社法第319条の書面決議を利用できる場合があります。ただし、決議事項と報告事項を区別して考える必要があります。

例えば、取締役の選任や計算書類の承認など、株主総会の決議が必要な事項については、所定の要件を満たせば書面決議を利用できます。

一方、事業報告の内容など、株主総会で報告すべき事項については、会社法第320条に別の制度が設けられています。

同条では、取締役が株主全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知し、その事項を株主総会に報告する必要がないことについて株主全員が書面または電磁的記録によって同意した場合には、報告があったものとみなされます。

したがって、定時株主総会の開催を省略する場合には、決議事項だけでなく、報告事項についても必要な手続を確認することが重要です。計算書類の承認が必要かどうかなどは、会社の機関設計によって異なります。

12.書面決議を利用する際の注意点

書面決議は便利な制度ですが、次の点に注意が必要です。

① 議決権を行使できる株主全員の同意が必要

株式数の過半数や3分の2以上の賛成だけでは足りません。

② 株主の構成を正確に確認する

株主名簿などを確認し、同意が必要な株主を漏らさないようにします。

③ 同意の対象となる議案を明確にする

何について同意したのか分からない書類では、後日問題になる可能性があります。

④ 同意を適切な方法で記録する

口頭での同意だけでは、会社法第319条の要件を満たしません。

⑤ 議事録を作成し、保存する

書面決議であっても、議事録の作成と保存が必要です。

⑥ 登記が必要な場合には期限を確認する

役員変更や登記事項となる定款変更などでは、原則として2週間以内の変更登記が必要です。

⑦ 報告事項は別に検討する

決議の省略と報告の省略は、会社法上、別の制度です。

書面決議を利用する場合には、単に会議を省略することだけでなく、後日その決議が適法に成立したことを確認できるようにしておくことが重要です。

まとめ

株式会社では、株主総会の決議が必要な事項についても、一定の条件を満たせば、実際に会議を開催せずに決議を成立させることができます。

会社法第319条の書面決議は、特に株主が少人数の中小企業にとって利用しやすい制度です。ただし、通常の株主総会とは異なり、議決権を行使できる株主全員の同意が必要になります。

特に重要なのは、次の点です。

① 株主全員の同意によって、株主総会の決議を省略できること

② 同意は書面または電磁的記録によって行う必要があること

③ 株式数の過半数ではなく、議決権を行使できる株主全員の同意が必要であること

④ 書面決議でも株主総会議事録を作成する必要があること

⑤ 取締役の選任や定款変更などにも利用できること

⑥ 定時株主総会の報告事項については、別途、会社法第320条の手続を確認する必要があること

大志法務事務所では、株主総会決議の省略に関するご相談、株主総会議事録の作成支援、役員変更登記、定款変更に伴う登記手続などに対応しています。

「株主が家族だけなので、株主総会を開催せずに取締役を変更したい」

「株主が遠方に住んでいるため、書面決議を利用したい」

「株主総会を開かずに定款を変更できるか知りたい」

「書面決議による役員変更登記を依頼したい」

という場合には、お気軽にご相談ください。

株主総会の書面決議は、必要な条件と書類を整えることで、中小企業の手続を合理化できる制度です。

参考情報

※本記事は2026年10月29日時点の法令等に基づく一般的な解説です。株主総会決議の省略、議決権の有無、必要書類、変更登記の手続などは、会社の定款、株主構成、機関設計、決議事項によって異なります。