親から子へ土地や建物を生前贈与したい。相続より得になる?
贈与による名義変更登記と、贈与税・登録免許税・不動産取得税の違いを解説します
「自分が元気なうちに、長男へ実家の土地を渡しておきたい」
「相続で兄弟がもめないように、今のうちに名義を変えたい」
「親から子への贈与なら、税金はあまりかからないのでしょうか?」
このようなご相談をいただくことがあります。
不動産を子どもへ引き継ぐ方法には、大きく分けて、親が生きている間に渡す**「生前贈与」と、亡くなった後に引き継ぐ「相続」**があります。
生前贈与は、親が元気なうちに財産の承継を進められるという利点があります。
一方で、贈与による所有権移転登記には登録免許税がかかり、贈与税や不動産取得税が発生する場合もあります。
「相続登記が義務化されたから、今のうちに贈与した方が得」
と単純に考えることはできません。
今回は、親から子へ土地や建物を生前贈与する場合の手続と、相続との違いを整理します。
1.生前贈与とは、どのような手続?
生前贈与とは、親などが生きている間に、自分の財産を子どもなどへ無償で譲ることです。
例えば、父Aが所有している土地を、長男Bへ贈与する場合を考えます。
贈与前は、
所有者:父A
です。
父Aと長男Bの間で贈与の合意をし、所有権移転登記を行うことで、登記上の所有者を長男Bへ変更します。
贈与後は、
所有者:長男B
となります。
不動産の贈与では、親が「あげる」と言うだけではなく、子どもが「もらう」と承諾することが前提です。
また、贈与の合意があっても、登記簿上の所有者が自動的に変わるわけではありません。
不動産の所有権を第三者に対して主張するためにも、所有権移転登記を行うことが重要です。
2.生前贈与と相続は、何が違う?
生前贈与と相続の大きな違いは、財産を引き継ぐ時期です。
生前贈与
親が生きている間に、親と子の合意によって財産を移転します。
相続
親が亡くなったことによって財産が相続人へ承継されます。
生前贈与では、親が元気なうちに、
「この土地は長男へ」
「この建物は長女へ」
と具体的に決め、手続を進めることができます。
一方、相続の場合には、遺言書の内容や相続人間の遺産分割協議などによって、誰が不動産を取得するかを決めることになります。
ただし、生前贈与をすれば、将来の相続に関する問題がすべて解決するわけではありません。
他の相続人との公平性や、遺留分などについても考慮する必要があります。
3.贈与による所有権移転登記には何が必要?
土地や建物を生前贈与する場合、一般的には次のような書類を確認します。
贈与する親について
- 登記識別情報または登記済証(権利証)
- 印鑑証明書
- 実印
- 本人確認書類
贈与を受ける子について
- 住所を証明する書類
- 本人確認書類
その他
- 贈与契約書
- 登記原因証明情報
- 固定資産評価証明書など
- 委任状
必要書類は、個別の事情や申請方法によって異なります。
例えば、親の現在の住所が登記簿上の住所と違っている場合には、原則として、贈与による所有権移転登記の前に住所変更登記が必要になります。
また、登記識別情報や権利証を紛失している場合には、別の方法で手続を進めることを検討します。
なお、2026年10月5日以降の所有権移転登記では、新たに所有者となる方の国籍等についても申出が必要となっています。
4.贈与契約書は作成した方がよい?
親子間の贈与であっても、贈与契約書を作成することをおすすめします。
例えば、
「父が長男に土地を贈与する」
という場合には、
- 誰が贈与するのか
- 誰が贈与を受けるのか
- どの不動産を贈与するのか
- いつ贈与するのか
- どのような条件で贈与するのか
などを明確にします。
親子間だからといって、口約束だけで進めてしまうと、後から贈与の内容や時期について問題になる可能性があります。
特に、将来ほかの相続人から、
「本当に父の意思で贈与したのか」
「いつ贈与したのか」
と疑問が出ることも考えられます。
贈与契約書を作成し、親本人の意思を確認したうえで登記を進めることが大切です。
5.生前贈与では「贈与税」に注意
親から子への生前贈与で、最も注意したいのが贈与税です。
贈与税は、原則として、財産をもらった人に課税される税金です。
一般的な暦年課税では、1年間に贈与によって取得した財産の合計額から、基礎控除額110万円を差し引いて税額を計算します。
ここで注意したいのは、110万円の基礎控除は、贈与する人ごとではなく、贈与を受ける人ごとに判定するということです。
例えば、同じ年に、
父から100万円
母から100万円
の贈与を受けた場合、合計200万円について考える必要があります。
父と母からそれぞれ110万円まで非課税になる、という仕組みではありません。
また、不動産の場合には、土地や建物の評価額が問題になります。
贈与する不動産の価額が110万円を超えるからといって、単純にその超過額だけを見て税額が決まるわけでもありません。
贈与税の課税方法や適用税率を確認する必要があります。
6.不動産の贈与税は、固定資産税評価額で計算する?
「土地の固定資産税評価額が1,000万円だから、贈与税も1,000万円を基準に計算するのでしょうか?」
この点にも注意が必要です。
贈与税を計算する際の土地の評価は、原則として、
路線価方式
または
倍率方式
によって行います。
路線価が定められている地域では、路線価を基に土地の形状などを考慮して評価します。
路線価がない地域では、固定資産税評価額に所定の倍率を乗じて評価することがあります。
一方、一般的な家屋の評価は、原則として固定資産税評価額を基に行います。
また、分譲マンションなどについては、特別な評価方法が適用される場合もあります。
つまり、固定資産税評価額と贈与税の評価額は、必ずしも同じではありません。
登記の登録免許税を計算するための評価額と、贈与税を計算するための評価額も、区別する必要があります。
7.「相続時精算課税」を使えば、贈与税はかからない?
生前贈与を検討するときに、よく話題になるのが相続時精算課税制度です。
この制度は、原則として、60歳以上の父母や祖父母などから、18歳以上の子や孫などへ財産を贈与する場合に選択できる制度です。
2024年1月1日以後の贈与については、相続時精算課税にも年間110万円の基礎控除があります。
さらに、一定の条件の下で、累計2,500万円の特別控除が設けられています。
ただし、ここで大切なのは、2,500万円までの贈与が、将来の相続税も含めて完全に非課税になるわけではないということです。
相続時精算課税では、贈与者が亡くなったとき、一定の贈与財産の価額を相続税の計算に加算する仕組みになっています。
また、一度この制度を選択すると、その贈与者からの贈与について、原則として暦年課税へ戻すことはできません。
贈与税だけでなく、将来の相続税まで考えて判断する必要があります。
8.贈与の登録免許税は、相続登記より高い?
不動産の所有権移転登記を申請するときには、登録免許税がかかります。
原則的な税率は、次のとおりです。
相続による所有権移転登記
不動産の価額の0.4%
贈与による所有権移転登記
不動産の価額の2%
例えば、固定資産税評価額が1,000万円の土地について、単純に計算すると、
相続の場合
1,000万円 × 0.4% = 4万円
贈与の場合
1,000万円 × 2% = 20万円
となります。
この例では、登録免許税だけで16万円の差があります。
なお、これは登録免許税の一般的な税率を用いた比較です。実際の税額は、課税標準額の端数処理や個別の軽減・免税措置などを踏まえて計算します。
「親子間だから贈与の登記も安くなる」というわけではありません。
9.贈与には「不動産取得税」もかかることがあります
生前贈与では、贈与税と登録免許税だけでなく、不動産取得税にも注意が必要です。
不動産取得税は、土地や建物を取得した人に対して課税される都道府県税です。
愛知県も、売買や贈与などによって不動産を取得した場合には、不動産取得税の対象になると案内しています。
一方、通常の相続による不動産の取得は、原則として不動産取得税が非課税です。
つまり、
生前贈与
→ 不動産取得税がかかる場合がある
相続
→ 原則として不動産取得税はかからない
という違いがあります。
ここで特に注意したいのは、相続時精算課税によって贈与税が発生しない場合でも、不動産取得税は別途課税され得るということです。
税金の種類ごとに制度が異なるため、
「贈与税がゼロなら、ほかの税金もゼロ」
とは考えないようにしましょう。
10.生前贈与をすると、将来の相続でもめなくなる?
生前贈与の利点の一つは、親が元気なうちに財産の承継先を決められることです。
例えば、父が所有する実家について、
「長男が住み続ける予定なので、今のうちに長男へ贈与しておきたい」
という場合です。
親の意思を確認しながら登記を進められることは、生前贈与の利点といえます。
しかし、子どもが複数いる場合には注意が必要です。
例えば、
長男には実家の土地と建物を贈与
長女には特に財産を渡していない
という場合、父が亡くなった後に、ほかの相続人との間で不公平感が生じることがあります。
また、相続人への生前贈与が、将来の遺産分割において特別受益として問題になる場合もあります。
さらに、遺留分を侵害する贈与については、遺留分侵害額請求の対象となる可能性があります。
生前贈与をしたからといって、将来の相続に関する争いを必ず防げるわけではありません。
贈与をする理由や、ほかの財産とのバランスも考える必要があります。
11.住宅ローンが残っている不動産も贈与できる?
住宅ローンが残っている土地や建物については、さらに慎重な検討が必要です。
例えば、父名義の自宅に住宅ローンが残っており、銀行の抵当権が設定されている場合です。
この不動産を長男へ贈与しても、原則として抵当権が自動的に消えるわけではありません。
また、住宅ローン契約には、金融機関の承諾なく所有権を移転することを制限する条項が設けられている場合があります。
そのため、住宅ローンが残っている不動産を贈与する場合には、事前に金融機関へ確認することが重要です。
さらに、子どもがローン債務を引き受けるような場合には、単純な無償贈与とは異なる税務上の問題が生じることもあります。
登記だけで判断せず、金融機関や税理士とも確認しながら進める必要があります。
12.「住宅取得等資金の贈与」の非課税制度は使える?
親から子への贈与では、
「住宅取得等資金の贈与には非課税制度があると聞いた」
というご質問もあります。
確かに、一定の要件を満たす住宅取得等資金の贈与については、贈与税の非課税制度があります。
しかし、この制度は、原則として住宅の新築・取得・増改築等に充てるための金銭の贈与を対象とするものです。
例えば、
「父が所有している土地そのものを長男へ贈与する」
という場合に、その土地の贈与が当然に住宅取得等資金の非課税制度の対象となるわけではありません。
国税庁も、父から居住用不動産そのものの贈与を受けた場合について、この非課税制度の対象とはならないと案内しています。
「住宅を買うためのお金を贈与すること」と「土地や建物そのものを贈与すること」は区別する必要があります。
13.生前贈与と相続、どちらを選べばよい?
生前贈与と相続のどちらがよいかは、財産の状況や家族関係によって異なります。
例えば、
生前贈与を検討するケース
- 親が元気なうちに、特定の子どもへ不動産を渡したい
- 子どもが既にその不動産を利用している
- 事業承継のため、早めに不動産の名義を整理したい
- 将来の相続を見据え、計画的に財産を移転したい
相続まで待つことを検討するケース
- 今すぐ名義を変える必要がない
- 生前贈与による税負担が大きい
- 親が引き続き不動産を管理・処分したい
- ほかの相続人との関係を整理する必要がある
といった違いがあります。
また、生前贈与以外にも、遺言書を作成しておくという選択肢があります。
例えば、
「自分が亡くなったら、この土地は長男に相続させる」
という意思を、遺言書で明確にしておく方法です。
親が生きている間に所有権を移転する必要がないのであれば、遺言書の活用も含めて比較することが大切です。
14.生前贈与の前に確認したいこと
親から子へ不動産を贈与する場合には、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
① 登記事項証明書を確認する
現在の所有者、住所、抵当権などを確認します。
② 固定資産税の評価額を確認する
登録免許税などの概算を確認します。
③ 贈与税の課税関係を確認する
暦年課税と相続時精算課税のどちらを利用するか、税理士などへ相談します。
④ 不動産取得税を確認する
贈与による取得に対して、どの程度の税負担が生じるかを確認します。
⑤ ほかの相続人との関係を考える
将来の遺産分割や遺留分への影響を検討します。
⑥ 贈与契約書を作成する
親と子の意思を確認し、贈与の内容を明確にします。
⑦ 所有権移転登記を行う
必要書類を準備し、法務局へ申請します。
贈与を決めてから税金を調べるのではなく、税金と登記費用を確認してから贈与するかどうかを決めることが大切です。
まとめ
親から子へ土地や建物を生前贈与することは可能です。
生前贈与には、親が元気なうちに財産の承継先を決められるという利点があります。
しかし、相続と比較すると、税金や登記費用の面で不利になる場合もあります。
特に注意したいのは、次の3つです。
贈与税
→ 財産をもらった人に課税される場合があります。
登録免許税
→ 贈与による所有権移転登記は、原則として不動産の価額の2%です。
不動産取得税
→ 贈与による取得では課税される場合がありますが、通常の相続では原則として非課税です。
また、相続時精算課税制度を利用した場合でも、将来の相続税や不動産取得税まで含めて、すべての税負担がなくなるわけではありません。
「親子間だから簡単に名義を変えられる」「生前贈与なら相続より得」と決めつけないことが重要です。
大志法務事務所では、不動産の登記内容の確認、贈与契約書の作成、贈与による所有権移転登記、相続登記などに対応しています。
税務上の判断が必要な場合には、税理士への確認を踏まえて手続を進めることが大切です。
「子どもへ実家を生前贈与したい」
「贈与と相続のどちらがよいか迷っている」
「贈与税や登記費用を確認してから名義変更を決めたい」
という場合には、まず不動産の登記内容と評価額を確認するところからご相談ください。
参考情報
- 法務局「不動産登記の申請書様式について」(贈与による所有権移転登記)
- 国税庁「登録免許税の税額表」
- 国税庁「相続時精算課税の選択」
- 国税庁「土地家屋の評価」
- 愛知県「不動産取得税」
- 国税庁「住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税に関するQ&A」
※制度内容は2026年10月11日時点の公表情報に基づいています。税額や適用できる特例は、財産の内容、贈与の時期、家族関係などによって異なります。
