遺言書は全部手書きしないと無効?
財産目録はパソコンで作成することもできます
「遺言書は、最初から最後まで全部手書きしないといけないのでしょうか?」
「不動産や預金が多く、財産の一覧を手で書くのは大変です」
「パソコンで作った財産一覧を付けたら、遺言書が無効になってしまいますか?」
自筆証書遺言を作ろうとしたとき、多くの方が迷うところです。
自筆証書遺言は、遺言をする本人が手書きで作成することが原則です。
しかし、現在の制度では、遺言書に添付する財産目録については、必ずしも手書きする必要はありません。
パソコンで作成した一覧表を使用したり、不動産の登記事項証明書や預貯金通帳の写しを添付したりすることもできます。
ただし、「パソコンで作ってよい部分」と「本人が手書きしなければならない部分」を混同すると、せっかく作った遺言書が方式を満たさない可能性があります。
今回は、自筆証書遺言の本文と財産目録の違い、署名・押印、日付、訂正方法など、作成するときに注意したいポイントをご説明します。
自筆証書遺言の本文は、原則として本人が手書きします
自筆証書遺言は、その名称のとおり、遺言者本人が自書して作成する遺言です。
2026年9月23日時点の現行制度では、原則として、遺言者が次の部分を自分で書く必要があります。
・遺言書の本文
・作成した日付
・遺言者の氏名
そして、遺言書には押印が必要です。
例えば、遺言の本文を家族が代筆したり、パソコンで作成した本文を印刷して本人が署名・押印したりしても、それだけでは自筆証書遺言の方式を満たしません。
本人が内容を考え、内容を十分理解していたとしても、法律で定められた方式を守っているかは別の問題です。
自筆証書遺言では、原則として、本文そのものを遺言者本人が手書きすることが必要です。
財産目録は手書きでなくても構いません
一方、遺言書に添付する財産目録については、本人が手書きしなくてもよいという例外が設けられています。
財産目録とは、遺言の対象となる財産を一覧にしたものです。
例えば、次のような内容を記載します。
・土地や建物の所在、地番、家屋番号
・預貯金の金融機関名、支店名、口座の種類、口座番号
・株式や投資信託などの金融資産
・自動車その他の財産
財産目録は、遺言者本人がパソコンで作成できます。
家族や専門家など、遺言者以外の人が作成することも可能です。
また、一覧表を一から作る方法だけでなく、不動産の登記事項証明書、預貯金通帳の写しなどを財産目録として添付することもできます。
不動産や預貯金が多い場合、すべてを手書きする負担を減らせる便利な仕組みです。
パソコンで作成できるのは「財産目録」です
ここで注意したいのが、
「財産目録をパソコンで作成できる」ことと、「遺言書全体をパソコンで作成できる」ことは違う
という点です。
例えば、次のような遺言書を考えてみます。
「別紙財産目録1記載の土地を長男に相続させる」
「別紙財産目録2記載の預金を長女に相続させる」
この「誰に何を相続させるか」という遺言本文は、原則として遺言者本人が手書きします。
これに対して、別紙の財産目録1・財産目録2については、パソコンで作成したり、登記事項証明書や通帳の写しを利用したりできます。
財産目録だけをパソコンで作成できる制度を、
「本文もパソコンで作成して、最後に署名すればよい」
と誤解しないようにしましょう。
自書しない財産目録には、各ページへの署名・押印が必要です
財産目録をパソコンで作成した場合や、登記事項証明書・通帳の写しなどを利用した場合には、何もせずに遺言本文へ添付するだけでは足りません。
現行制度では、自書によらない財産目録の記載があるすべてのページに、遺言者本人が署名し、押印する必要があります。
両面印刷をして、表と裏の両方に財産の記載がある場合には、表面だけでなく裏面にも署名・押印が必要です。
例えば、パソコンで作成した財産目録が3ページあるなら、原則として3ページすべてに署名・押印します。
登記事項証明書の写しを財産目録として添付する場合や、通帳の複数ページをコピーして添付する場合も、署名・押印が必要となるページを確認しなければなりません。
「最後のページにだけ署名・押印しておけばよい」と思い込まないよう注意が必要です。
遺言本文と財産目録の関係を明確にしましょう
財産目録を添付しても、遺言本文との関係が分からなければ、どの財産を誰に取得させたいのか判断しにくくなります。
本文には、例えば、
「別紙財産目録1記載の不動産を長男○○に相続させる」
「別紙財産目録2記載の預貯金を長女○○に相続させる」
など、財産目録を特定できる書き方をします。
財産目録が複数ある場合には、
・財産目録1
・財産目録2
・別紙1
・別紙2
などの番号を付け、本文から参照できるようにしておくと分かりやすくなります。
遺言書の本文と財産目録は、別々の書類を偶然一緒に保管しているのではなく、全体として一つの遺言書であることが分かる状態にしておくことが大切です。
不動産は住所だけで特定できないことがあります
財産目録に不動産を記載するときは、日常生活で使用している住所だけを書けば十分とは限りません。
不動産の登記では、土地については所在・地番・地目・地積、建物については所在・家屋番号・種類・構造・床面積などによって特定します。
普段使用している住居表示と、登記記録上の所在や地番が異なることもあります。
「一宮市○○町の自宅を長男に相続させる」
という書き方だけでは、敷地が複数の土地に分かれていたり、自宅のほかに未登記の物置や附属建物があったりした場合に、対象が明確にならない可能性があります。
不動産を財産目録に記載するときは、最新の登記事項証明書などで登記上の表示を確認することが大切です。
預貯金は口座を特定できるように記載します
預貯金を記載する場合には、金融機関名だけでなく、支店名、預金の種類、口座番号など、対象となる口座を確認できる情報を記載します。
ただし、遺言書を作成してから相続が始まるまでには、長い年月が経過することがあります。
その間に、
・銀行の支店が統廃合された
・口座を解約した
・新しい口座を開設した
・預金残高が大きく変わった
・金融商品を買い替えた
ということもあります。
財産目録を細かく作れば分かりやすくなりますが、財産が変動したときに遺言書の内容と現状が合わなくなる可能性も考えておかなければなりません。
遺言書を作成した後も、財産や家族関係に大きな変化があったときは、内容を見直すことが大切です。
日付を「令和8年9月吉日」と書くのは避けましょう
自筆証書遺言には、作成日を具体的に記載する必要があります。
「令和8年9月23日」のように、年月日が特定できる形で書きます。
一方、
「令和8年9月吉日」
という書き方では、作成した日を特定できません。
遺言書の日付は、単なる作成記録ではありません。
遺言者に遺言をする能力があったかを判断するときや、内容の異なる複数の遺言書が見つかったときに、どちらが後に作られたものかを確認するときにも重要になります。
契約書や手紙で「吉日」という表現を使うことがあっても、自筆証書遺言の日付には具体的な年月日を記載しましょう。
書き間違えたときの訂正にも決まりがあります
手書きで長い遺言書を作成すると、文字を書き間違えることがあります。
しかし、自筆証書遺言は、間違えた部分を二重線で消して、近くに正しい文字を書けばそれだけでよい、というものではありません。
法律上、遺言書の加除や変更については、
・変更する場所を示す
・変更した旨を付記する
・その付記部分に署名する
・変更箇所に押印する
といった方式が定められています。
訂正方法が複雑になったり、訂正箇所が多くなったりした場合は、無理に修正を重ねるより、最初から書き直した方が安全なこともあります。
読みにくい訂正が多数あると、後になって「どこをどのように変更したのか」「本人が変更したものなのか」という疑問が生じるおそれもあります。
財産目録だけを後から勝手に差し替えてよい?
遺言書を作成した後に財産が変わると、
「古い財産目録を外して、新しい一覧表に入れ替えればよい」
と思われるかもしれません。
しかし、財産目録は遺言本文と一体となって遺言内容を特定する書類です。
後から目録だけを入れ替えると、
・どの時点の目録が遺言書の一部だったのか
・遺言者本人が差し替えたのか
・第三者が入れ替えた可能性はないか
・本文で指定した財産が変わっていないか
といった問題が生じる可能性があります。
財産内容を変更したい場合は、単にページを入れ替えるのではなく、新しい遺言書を作成する、法律上の方式に従って変更するなど、適切な方法を検討する必要があります。
古い遺言書を残す場合には、新旧の遺言内容が矛盾していないかについても確認が必要です。
法務局へ預ければ、内容も有効だと保証される?
自筆証書遺言は、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用して保管してもらうことができます。
法務局で保管することには、
・遺言書の紛失を防ぎやすい
・第三者による破棄や改ざんを防ぎやすい
・相続開始後の家庭裁判所による検認が不要になる
・遺言書が保管されていることを通知する制度がある
といった利点があります。
ただし、法務局は、遺言書の内容について法律的な助言をしたり、「この遺言内容なら必ず希望どおりに実現できる」と保証したりする機関ではありません。
保管申請の際に形式面の確認が行われても、遺言内容の解釈、遺留分、相続人との関係、対象財産の特定、相続開始後の手続まで、すべての問題がなくなるわけではありません。
「法務局で預かってもらえたから、内容も完全に有効だ」とは限らない点に注意しましょう。
2026年に法律は改正されましたが、施行時期に注意が必要です
2026年6月24日、成年後見制度と遺言制度を見直す改正法が公布されました。
遺言制度については、自筆証書遺言などにおける押印の任意化や、電子データなどを利用して作成し、法務局で保管する「保管証書遺言」の創設などが予定されています。
ただし、法律が公布されたことと、すべての新制度が直ちに利用できることは同じではありません。
押印の任意化等は、公布の日から1年を超えない範囲内で政令により定める日に施行されます。
保管証書遺言の創設等は、公布の日から3年を超えない範囲内で政令により定める日に施行されます。
したがって、2026年9月23日時点で自筆証書遺言を作成する場合は、将来の制度だけを見て判断せず、作成時点で施行されているルールを確認する必要があります。
インターネット上には、改正後の制度と現在の制度を区別せず、「遺言書に印鑑は不要になった」「パソコンで遺言書を作れるようになった」と説明している情報が掲載される可能性もあります。
実際に作成するときは、法務省などの最新情報を確認してください。
「手書きかどうか」だけでなく、内容も重要です
自筆証書遺言については、
「どこまで手書きすればよいか」
「署名と押印はどこに必要か」
といった形式面に目が向きやすくなります。
しかし、形式を守っていても、内容が曖昧であれば、相続開始後の手続で困ることがあります。
例えば、
・財産を特定できない
・受け取る人を特定できない
・不動産の一部が記載されていない
・遺留分への配慮がされていない
・予備的な指定がない
・遺言執行者が決められていない
・遺言作成後に財産や家族関係が変わっている
といった問題です。
遺言書は、単に法律上の書式を満たすだけでなく、亡くなった後に実際の相続手続へ使用できる内容になっていることが大切です。
自筆証書遺言を作る前に、財産と家族関係を整理しましょう
自筆証書遺言を作成するときは、いきなり清書を始めるのではなく、まず次の内容を整理することをおすすめします。
・相続人になる人は誰か
・不動産、預貯金、株式など、どのような財産があるか
・誰にどの財産を取得してもらいたいか
・記載から漏れた財産を誰に取得してもらうか
・遺留分について確認が必要か
・遺言執行者を指定するか
・自宅保管、法務局保管、公正証書遺言のどれが適しているか
財産目録を作ることは、所有している財産を見直す機会にもなります。
登記名義が昔の住所のままになっていたり、すでに解約した預金口座が含まれていたり、家族が知らない不動産が見つかったりすることもあります。
「全部手書き」ではありませんが、自由に作れるわけでもありません
現在の自筆証書遺言は、遺言書のすべてを必ず手書きしなければならない制度ではありません。
財産目録については、パソコンで作成したものや、登記事項証明書、通帳の写しなどを利用できます。
一方で、
・本文、日付、氏名は原則として本人が手書きする
・自書しない財産目録の各ページに署名・押印する
・両面に記載があれば両面に署名・押印する
・本文と財産目録の関係を明確にする
・具体的な日付を記載する
・訂正は法律上の方式に従う
といったルールがあります。
大志法務事務所では、自筆証書遺言や公正証書遺言の作成、不動産や預貯金を含む財産の整理、遺言執行者の指定、遺言に基づく相続登記などについてご相談を承っています。
遺言の有効性をめぐって相続人間に争いがある場合などは、内容に応じて弁護士への相談が必要になることもあります。
「自分で遺言書を書きたいが、どこまで手書きすればよいか分からない」
「財産目録の作り方が分からない」
「作成した遺言書で不動産の名義変更ができるか確認したい」
という場合は、清書する前に内容と作成方法を確認しておくと安心です。
財産目録はパソコンで作成できますが、遺言書全体を自由にパソコンで作成できるわけではありません。本文と目録の違いを理解して、作成時点のルールに従うことが大切です。
参考情報
法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)」
※法令・制度の内容は、2026年9月23日時点の情報に基づいています。
